道の上で見た話
本文約3,700字 ・ 読了時間 約8分
あらすじ(AIが作成しました)
露店で働く青年は、突風で日傘をさらわれた女性の諦めや、重い荷を引く馬と馬子の過酷な姿を通して、社会の荒廃とわびしさを感じる。一方で、借りた童話で読んだ狼たちの団結の教えや、苦境にある者へ若者が示した優しさに触れ、悲しみの中でも正しく生きようとする人間社会の美しい思いやりと、互いに助け合う大切さを再確認する。
💰 この本を応援する(投げ銭)
いつものようにぼくは坂下の露店で番をしていました。
このごろ、絵をかいてみたいという気がおこったので、こうしている間も、物と物との関係や、光線と色彩などを、注意するようになりました。また坂の上方の空が、地上へひくくたれさがって、ここからは、その先にある町や、木立などいっさいの風景をかくして、たとえば、あの先は海だといえば、そうも思えるように、いくらも空想の余地あるおもしろみが、だんだんわかってきました。
その日は、からっとよく晴れていました。ただおりおり風が、砂ぼこりをあげて、おそいかかるので、気持ちがおちつかなかったけれど、毎年、夏のはじめには、よくある現象でした。
ちょうど、若い女が、店の前へ立って、石けんを見ていましたが、ここをはなれて、あちらへいきかけたときです。とつぜん、坂の上から、おそろしい突風が、やってきて、あっというまに、女のさしている日がさをさらって、青空へ高く、風車のように、まきあげました。それは、またはなやかなアドバルーンのようにも、糸が切れた風船玉のようにも、うすべに色をして、美しかったのです。そして、日がさは、くるりくるりとまわりながら、あてもなく飛んでいくのでした。
このとき、通りかかった人々は、たちどまって、上をむき、あれよ、あれよといってさわぎました。けれど、なかには、自分になんの関係もないできごとといわぬばかり、ふたたび見あげようともせず、さっさといくものもありました。こんなさいちゅうに、たぶんこのあたりをうろつく、浮浪児でしょう。
「おれが、ひろうぞ!」と、叫んで、二、三人往来の人をかきわけ、かけていきました。
風に、日がさをさらわれた、女の人は、顔を赤くして、とりかえしのつかぬことをしたと思ったのでしょう。いそいで、その方向へいきかけましたが、五、六歩もいくと、きゅうに思いとまって、もどりかけました。そして、店の前まできたので、
「そんなに、遠く飛んでは、いきませんよ。」といって、ぼくは女の人を力づけようとしました。
「いえ、だれかすぐにひろってしまいますでしょう。」と、彼女は答えて、もはや、あきらめたように、いってしまいました。