おじさんの髪は、いつもきれいでした。そして、花畑でも通ってきたように、着物は、いいにおいがしました。そわそわと、いそがしそうに、これから、汽車に乗って、旅へでもでかけるときか、あるいは、どこか遠くから、いま、汽車でついたばかりのように、その目はいきいきとしていました。
事実、おじさんは、方々へでかけたし、ぼくたちの知らない町で、めずらしいものを見たり、いろいろの人々とあって、聞いたおもしろい話を、ぼくたち兄弟にしてくれたのでした。
ある日のこと、
「ぼく、望遠鏡が、ほしいな。」といったのです。すると、おじさんが、
「じゃ、いい望遠鏡を、さがしてやろうかな。」といいました。
「遠くが、見えるんだよ。」
「船乗りが、持つようなのさ。」
「そんなの、あっても、高いだろう。」
「なに、出ものなら、たいしたことはない。」
こんなぐあいに、おじさんの口から聞くと、なんとなく、はや、自分は、のぞみを達したもののように、うれしくなるのでした。
また、ある日のことでした。弟が、
「どこかに、スケートのくつが、ないもんかな。」と、思いだしたように、いいました。
「なに、きみは、スケートができるのかい。」と、おじさんが、聞きました。
「おけいこをしたいんだよ。」
「そんなら、S町の夜店へいってごらん。あのへんには、外人の家族が、たくさんきているから、出ないともかぎらない。」
まったく、雲をつかむような話なのだけれど、おじさんのいうことを聞くと、なんとなく、そうかもしれぬと思うのです。
「S町へいってみるかな。」と、弟が、いいました。すると、おじさんが、
「この時計も、あすこの露店で買ったのだ。スイス製のなかなか正確なやつで。」と、おじさんは、時計をうでからはずして、ぼくたちに見せました。
ぼくは、まえから、いい時計だなと思っていたのでした。形がめずらしく、長方形をして、緑色のガラスが、はまっていました。手にとってみるのは、はじめてだけれど、するどい、ぜんまいの音が、チッ、チッとしています。