夢のような昼と晩
本文約2,500字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
椿の咲く庭で自然の美しさに浸る少年は、金魚売りから金魚を買い求め、その命の輝きに心を躍らせる。穏やかな昼の情景とは対照的に、夜には隣家の窓が閉ざされ、漂う薬の香りが少年に不安を抱かせる。母との対話を通じて戦争の悲惨さと平和の尊さを学んだ少年は、争いの絶えない世界に思いを巡らせながら、安らかな眠りへと誘われる。本作は、日常の中に潜む戦争の影と平和への祈りを、少年の視点から繊細な筆致で描き出す。
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赤い花、白い花、赤としぼりの花、いろいろのつばきの花が、庭に咲いていました。そうして、濃い緑色の葉と葉のあいだから、金色の日の光がもれて、下のしめった地の上に、ふしぎな模様をかいていました。
葉がゆれると、模様もいっしょに動いて、ちょうど、水たまりへ落ちた花が、浮いているようにも見えました。
また、どこからともなく、そよ風に、桜の花びらが飛んできました。
「ああ、なんというおだやかな、いい日だろう。」
少年は、うっとりと、あたりをながめていました。
そのとき、ピアノの音が聞こえました。
「前の家のおねえさんも、いいお天気なので、おひきなさる気になったのだろう。」
しかし、これほどよく、音と色とが、調和することがあるだろうか。
少年は、色鉛筆と紙を、そこへなげ捨ててしまいました。なぜなら、花だけをかいても、音をかくことができません。このさい、それを自分の力で表せぬなら、いっそなにも書かぬほうがよかったのです。
少年は、ただ自然の美しさと、やさしさに見とれるばかりでした。
「きのうきょうは、花のさかりだけれど、一雨くれば、みんな散ってしまいますよ。」
お母さんが、けさおっしゃった言葉が、ふと頭に浮かんだので、少年は、いっそうこの景色を、とうとく、いとしいものに思いました。
「金魚やあ!」と、かすかに呼び声がしました。
たちまち、少年の注意は、そのほうへとられたのです。すべてを忘れて、しばらく熱心に耳をすましました。
「どこだろうな。」
しかし、それきり、その声は聞こえませんでした。少年は、じっとしていられなくなって、ついに、門の外へ出て、方々をながめたのです。
町の方へつづく道の上には、かげろうがたち、空の色はまぶしかった。しずかな真昼で、人通りもありませんでした。金魚売りのおじさんは、きっと、あっちの露路へまがったのだろう。そう思っていると、こっちへかけてくる子供がありました。
はじめ、その姿は小さかったのが、だんだん大きくなって、よくわかるようになると、手にブリキかんを持っていました。それは、隣家の武ちゃんでした。
「武ちゃん! 金魚を買ったの。」と、少年はそっちを向いて、大きな声でいいました。