クラリネットを吹く男
本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
この町に住む物静かな李さんは、音楽とクラリネットを愛する人物である。親しい源さんと将棋を指し、故郷の歌を懐かしむ穏やかな日々を送っていた。やがて源さんが召集されると、李さんは源さんの家族が始めた菓子屋を宣伝するため、少年たちと楽隊を組むことを決意する。冬の空の下、クラリネットの音色を響かせながら町を練り歩く李さんと少年たちの姿を通して、銃後を守る人々の絆と交流を描く。
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李さんが、この町にすんでから、もう七、八年になります。いまではすっかり町の人としたしくなって、えんりょ、へだてがなくなりました。工場へつとめ、朝出かけて晩に帰ってきます。
休みのときは、よく近所の源さんのところへあそびにいきました。この二人は、わけて仲がよかったのです。源さんは会社につとめて、ごくほがらかな性質でありましたが、李さんはそれにくらべて口数の少ない、うちきなところがありました。
二人は、顔を見ると、将棋をさしました。源さんのほうが、いくらか李さんよりは強いようでした。しかし、李さんは、音楽にも趣味をもっていて、ラジオで、歌を放送するときなど、将棋をさしながら、自分の駒がとられるのも知らず、歌のほうに気をとられていました。あるとき、朝鮮の歌が、若い女の人に歌われました。
李さんは、目に涙をためて聞いていました。
「李さん、あれはどんな歌かね。」と、源さんがきくと、李さんは、さびしく笑って、
「鳥、鳥、どこへいく、あちらの山へというような歌ですよ。」と、答えました。
「ははあ、どこの国も、子守唄は、かわらないんだね。」
「そうですとも、私、子供の時分に、おばあさんが、よく歌ってくれました。」
「李さんは、クラリネットが、うまいそうだが、ひとつきかせておくれよ。」と、源さんがいいました。
「私の生まれた町へも、あめ屋がよくクラリネットを吹いてきました。私、あの音が大すきで、はたらくようになってから、古道具屋に下がっていたのを買って、吹くことをおぼえました。こんど、野原へいってきかせます。」
李さんが、休みの日には、源さんが出かけなければならなかった。二人が、クラリネットを持って、そとへいくような日は、ついにこなかったのでした。
ある日、李さんは一人で土手の上でクラリネットを吹いていました。もう、夏もいくころで、空には、赤い花びらをちらしたように、雲が美しく飛んでいました。
ちょうど良ちゃんと清ちゃんが、川を後にして、釣りから帰ってくる途中でした。二人は話しながら、いい音のする方へ、土手を上って近づいてきました。