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TORENDIA

貧乏線に終始して

本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

作家を目指す過程で経験した極貧生活と、その中で直面した社会の冷徹さを綴る。独自の芸術を追求する精神と、衣食のために作品を売らざるを得ない経済的困窮との矛盾に苦しみ、質屋や古物商との取引や医療の壁を通じて弱い者苛めの現実を突きつけられる。社会の構造的な矛盾が家族や自身の精神に与えた影響を振り返り、生きるための苦痛と悲劇のない世界を希求し、階級戦の必然性を見出すまでを描く。

小川未明

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🎧 貧乏線に終始して / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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今も尚お、その境地から脱しないでいる私にあっては、『貧乏時代』と、言って、回顧する程のゆとりを心の上にも、また、実際の上にも持たないのでありますが、これまでに経験したことの中で、思い出さるゝ二三の場合について、記して見ます。

何と言っても、はじめて、作家に志してから、苦しんだことは、独自の境地を行こうとする努力と、その作品を直に金に換えなければ、衣食することができなかったことです。文壇の大勢に、時としては、反抗したものを書き、それを売らなければ、ならぬということは、すでに其処に矛盾が存していたからです。

少しの貯えもなく、家庭に欠乏を告げているにかゝわらず、机に向って、自分の理想を描こうとする――そこには、精神だけの飛躍が許されるとしても、直にペンを下に置いたと同時に、物質の欠乏から来る不安と悩みが感じられる。この二重の苦痛に悶々とした時代であります。

自分の信ずるものを書き、それを金にしなければならぬ。そういう悲劇的な場合にあって、殆んど、狂熱的に、自己を鞭打ったものは、自分の意志より他にない。そして柔順で、献身的であった、妻の愛に救われたというより他に、何ものかありません。『彼は、其の日暮らしに、追われている』と、いう蔑視から、資本家や、編輯者等が、いまだ一介の無名の文筆家に対して、彼等の立場から、冷遇しなかったと何んで言えよう。況んや、私のように、逆境に立ち、尚お且つ反抗の態度に出て来た者を同情するより憎むのが寧ろ当然だったから。しかし、私は、真に自分を知ってくれた人でなければ、原稿を持って、頼みに行ったことがなかった。

あの時代の文壇の状況と、その交って来たいろ/\の人々について、私は、いつか書いて見たいと思っているが、それはもっと私という人間が、冷静になって、私情で物を言わなくなった時でなければ、言うものでないと思っています。

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