泡鳴五部作
本文約85,500字 ・ 読了時間 約172分
あらすじ(AIが作成しました)
義雄は、樺太での事業計画や知人たちとの関わりの中で、自身の経済的な困窮や友人関係の希薄化に直面する。氷峰や松田らとの交流や、北海道を舞台にした移動を繰り返すうちに、理想と現実の狭間で孤立感を深めていく。放浪を続ける中で、かつての友人や女性たちとの繋がりに変化が生じ、自身の置かれた立場や抱える問題を省みながら、帰京を切望しつつも出口の見えない日々を送る姿を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
今夜も必らず來るからと、今度はよく念を押して置いた。然し、餘り自分ばかりで行くのもかの女並びにその家へきまりが惡い樣だから、義雄は今一文なしで困つてゐる氷峰をつれて行つてやらうといふ氣になり、薄野からの歸り足をまた渠の下宿へ向けた。
いつもの通り、案内なしであがつて行き、氷峰の二階の室のふすまを明けると、渠とお鈴とがびツくりして、ひらき直つた。お鈴はまた裁縫に行く時間をごまかし、氷峰のもとへ押しかけて來て、何かあまえてゐたところであつたらしい。
「こりやア失敬した、ね」と云つて、義雄が這入つて行き、早速飯を云ひつける樣に頼んだ。
「また、ゆうべも御出馬か」と、氷峰が冷かす。
「今夜は一緒に行かう。」
「よからう。」氷峰も義雄と同じ樣にねむさうな樣子だ。お鈴は、今まで赤らめてゐたその顏へ急に不平らしい色を加へて、渠をちらと見た。
「お鈴さん、さう燒かなくツてもいいぢやアないか、ね?」
「わたしやそんなこと知らない、わ。」かの女は恥かしさうに笑ひながら云ふ。
「それでも、君」と、氷峰はにこつきながら、「とう/\結婚することだけは僕も承諾したよ。」
「あら、そんなこと云はないでも――」
「云つたツてかまはないぢやアないか?」義雄はからかひ半分に、「僕があなたの邪魔をするぢやアなし、さ。お鈴さん、とう/\成功した、ね。」
お鈴は再び顏を赤くした。そして、座に堪へられなくなつたかの樣に、あわただしく歸つてしまつた。