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TORENDIA

塩原日記

本文約5,900字 ・ 読了時間 約12分

あらすじ(AIが作成しました)

著述家である筆者は、執筆のため塩原の福渡温泉を訪れ、いづみ屋別館に滞在する。執筆に専念できるよう本館の離れへ移った筆者は、窓から見える紅葉の山々や周囲の静かな情景を日記に綴る。その後、さらなる風景を求めて温泉場の奥にある塩の湯へ向かい、そこで偶然再会した小寺健吉と共に過ごすなど、温泉地での滞在と執筆の日々を描く。交通の不便さや、先人ゆかりの地を巡る道中の様子も合わせて記録する。

岩野泡鳴

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🎧 塩原日記 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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十月廿七日、晴。急行で午後四時三十分頃に西那須驛に着した。實は、初めてのことで、而も急行は宇都宮より先きは黒磯でなければとまらぬやうに旅行案内には出てゐたので、正直に黒磯までの切符を買つたのだが、車上で人に教へられて西那須へ下りたのだ。

そこから自動車(乘り合ひ、一人前四圓)で五里半の道を四十五六分で鹽原の福渡りと云ふ温泉場へ來た。その途々のいい風景は、日が暮れてゐたので、見られなかつた。どこへとまると云ふ當てもなかつたのだが、乘り合はせた老人夫婦も當てて行くと云ふので、一緒にいづみ屋別館へとまることにして、そこで自動車を下りた。團體が來てゐてやかましいが、あすは歸るからと云はれて、僕は老人夫婦のと前以つてきまつてたおもて向き坐敷の隣室へ這入つた。宿帳へは、どこへ行つても、僕は職業を著述家と書くのだが、どう云ふことをするのかと問ひ返されることがあるので、今囘はそのうるささの豫想を避けるため、職業の一部分なる小説家を以てしたところ、それを一と目見てから番頭は俄かにほほゑんでじろりと僕の方を見返した。名を知つてたのか、それとも小説家と云ふのが珍らしかつたのか、そこはちよッと分らなかつた。やがて再び番頭がやつて來て、

「書き物をなさるなら、ここはごた/\してゐまして、お困りでしようから、あすから本館の離れの二階へ御案内致しましようか」と云つた。その代り、寂しくて不便だがとのことであつたが、それはかまはないから、その方が結構だと僕は頼んだ。

湯はすみとほつて修善寺温泉のそれのやうに綺麗だ。手ぬぐひも染まらないで、ます/\白くなると云ふ。僕が修善寺を好きなのもその爲めである。その夜は一杯飮んで直ぐ休むつもりであつたが、食後、隣室の老人に呼ばれて暫らく話をしに行つた。日本橋の藥り問屋の隱居であつた。孫だと云ふ五歳の女の子をもつれてた。

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