一
お鳥は、兄のところを拔けて來る場合が見付かり難かつたとて、四日目にやつて來た。そして直ぐ入院した。持つて來た行李までも運び込まうとしたので、義雄は、
「荷物までも入院させるには及ぶまい」と云ふと、
「お前は信用でけんから、ね。」頸をつき出し、目を細く延ばした。
「もう、質屋へは入れないよ。」
「分るもんか。」
「けちな奴だ」とは云つて見たが、義雄はかの女の始末なのを一年以上も利用してゐたのを思ひ出す。思ひ通りの贅澤はやらせることが出來なかつた代り、いつもまとまつた金の取れた時に、それをすべてかの女にまかせたのである。
すると、それを大事がつて、よくしまつて置き、ちびり/\と實際生活上の必要にしか出さない。そして、一ヶ月なり、一ヶ月半なりのうちに、みんな無くなつてしまふ。然し、それでも、まとまつた金を受け取る時の嬉しさをかの女は忘れられない樣子であつた。
然し時々その手を氣が付いて自分のつまらないのを訴へることもあつた。そんな時は、かの女の望み通り、西洋料理屋なり、音樂會なり、三越、白木屋などにつれて行つた。
「考へて見れば、若い女をむざ/\と、可哀さうでもある」と、成るべくお鳥の爲すがままにして置くのである。
寂しいから、夜だけは義雄の方へとまりに來て呉れろと頼んだが、それも人の手前、をかしく思はれるからいやだと云つた。
「みなに何と云はう? 兄さんだと云うて置こか?」
「そんな嘘を云つたツて、人には直ぐ分るよ。」
「どう分るの?」
「亭主でなければ、色男、さ。」
「いやアなこツた!」かう云つて、わざと横を向き、「そんなおぢイさんを――さう思はれるのは恥かしい。」
「恥かしいたツて、覺悟の上ぢやアないか?」
「では、お父さんだと云をか」と、からかつて笑ひながら、「けふも、直ぐ旦那さんにすれば、年が行き過ぎてる云うてたさうだもの。」
「年寄りの旦那さん――西洋人なら、いくらもあらア。」
「毛唐人ぢやあるまいし、いやアなこツた。――それとも、お前が田中子爵の樣に金持ちなら――」
「さうすりやア、どうせ、お前ばかりではない、五人でも、六人でも、意張つて女を持つかも知れない。」
「若く生れ變つてお出でよ。」