赤い実
本文約2,100字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
晩秋の夕暮れ、針仕事に精を出す母の目の衰えに気づいた義雄は、悲しみを覚えながら糸を通す。庭のざくろの枝に刺さった真っ赤な実を見つけた二人は、鳥が運んできたであろうその実について語り合う。母は、植物が子孫を残し繁栄する仕組みと、親から子へ引き継がれる人間の役割を説く。その言葉に感銘を受けた義雄は、未来への希望を抱き、春に芽が出ることを願いながら庭の土にその実を埋める。
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だんだん寒くなるので、義雄さんのお母さんは精を出して、お仕事をなさっていました。
「きょうのうちに、綿をいれてしまいたいものだ。」と、ひとりごとをしながら、針を持つ手を動かしていられました。
秋も深くなって、日脚は短くなりました。かれこれするうちに、はや、晩方となりますので、あちらで、豆腐屋のらっぱの音がきこえると、お母さんの心は、ますますせいたのでありました。
ちくちくと、縫っていられますうちに、糸が短くなって糸の先が、針孔からぬけてしまったのです。お母さんは、新しい糸の先を指で細くして針の孔にとおそうとなさいました。けれど、うまいぐあいに、糸は孔にとおらなかったのです。
お母さんは、気をおもみになりました。そして、明るい方を向いて、針の小さな孔をすかすようにして、糸の先をいれようとしましたが、やはりうまくいきませんでした。
「義雄さん。」と、お母さんはたまりかねて、隣のへやで、勉強をしていた義雄さんをお呼びになりました。
「なんですか、お母さん。」と、義雄さんは、すぐにやってきました。
「お母さんは、目がわるくなって、とおらないから、ちょっと糸を針孔にとおしておくれ。」と、おっしゃいました。
これをきくと、義雄さんは急に胸がふさがって、悲しくなりました。
「お母さんは、まだおばあさんじゃないんでしょう。」と、義雄さんはききました。
「いいえ、もうおばあさんなんですよ。」
こうおっしゃったお母さんの言葉に、やさしい義雄さんは、目の中に、熱い涙がわいてきました。糸をとおしてあげて、ふと、庭さきを見ると赤いものが、目にとまったのです。
「あの、赤いのはなんだろうな。お母さん、あの赤いのはなんでしょうね。」
「どれですか。」
「ざくろの木の、あの枝さきについている……。」
すでに、黄色くなった葉が落ちてしまって、ざくろの木は枝ばかりになっていました。その一本の枝のさきに、小さい真っ赤なものが、ついていたのです。そして、それはなんであるか、お母さんにもわかりませんでした。
義雄さんは、庭に下りて、すぐにざくろの木に登りはじめました。
「おちるといけませんよ。」と、お母さんは、注意をなさいました。