良ちゃんは、お姉さんの持っている、銀のシャープ=ペンシルがほしくてならなかったのです。けれど、いくらねだっても、お姉さんは、
「どうして、こればかしは、あげられますものか。」と、いわぬばかりな顔つきをして、うんとはおっしゃらなかったのでした。
お姉さんは、良ちゃんをかわいがっていました。英ちゃんや、義雄さんよりも、かわいがっていました。それは、良ちゃんはまだ小さくて、やっと今年から学校へ上がったばかりなのですもの。
「お姉さん、その光った、鉛筆をおくれよ。」と、また思い出したように、お姉さんのところへやってきました。いままでにも、だめといったのが、無理に頼めば、しまいにはきいてもらえたので、シャープ=ペンシルにしても、いつか自分のものになると思ったからです。
「こればかりは、だめよ。」と、お姉さんは、おっしゃいました。
「だめ? じゃ、ちょっと僕に見せておくれよ。」と、良ちゃんは、小さい手を差し出しました。
「だめよ。なんといっても、これは、良ちゃんにあげられません。お姉さんが、使っているのですもの。」
「見せて、おくれよ。」と、良ちゃんは、けっして、自分のものにはしないから、ただ手に取らしてよく見せてくれないかということを、顔色に現していいました。
「ええ、見せてあげますわ。けれど、あげるのではなくてよ。」と、いって、お姉さんは、ハンドバッグから、シャープ=ペンシルを出して良ちゃんの手にお渡しになりました。
良ちゃんは、いつかもこうして、無理に美しい、コンパクトの容器をもらったことを思い出すと、今度も、これをもらえるのでないかと思いましたから、
「僕、これほしいな。」といって、銀の軸に小さな英語の彫ってあるのをじっと見ていますと、
「こればかしは、いけないの。」と、お姉さんは念を押すようにおっしゃいました。
「僕の持っているもの、お姉さんにあげるけどなあ。」と、良ちゃんは、いいました。
「ほほほほ、良ちゃんは、どんなものを持っているの?」
「僕だいじにしているものがあるのだよ。」
「どんなもの、良ちゃんのだいじにしているものって、なんでしょう?」
「あれと代えてくれる?」