TRENDIA CLASSIC

ボールの行方

小川未明

1 / 5

正ちゃんは、いまに野球のピッチャーになるといっています。それで、ボールをなげて遊ぶのが大すきですが、よくボールをなくしました。

「お母さん、ボールをなくしたから、買っておくれよ。」と、学校へいこうとしてランドセルをかたにかけながら、いいました。

「また、なくしたのですか。二、三日前に買ったばかりじゃありませんか。」

「僕、ボールがないとさびしいんだもの。」

「いいえ、そう毎日、ボールばかり買ってあげられません。」と、お母さんはおっしゃいました。

「ねえ、お母さん、もうなくなさないから。こんどから、きっとなくなさないから。」

「なくなさないと、なんどいいましたか。ものを粗末にするからですよ。」

「粗末になんかしないよ。だって、どっかへいってしまうんだもの。」

「おとなりの誠さんなんか、おちついていらっしゃるから、おまえみたいに、そうものをおなくしになりませんよ。」と、お母さんは、となりの誠くんのことをほめられました。

「誠くんだって、なくすやい。昨日、上ぐつを片っぽおとしてきて、お母さんにしかられていたから。」と、正ちゃんはいいました。

「じゃ、今日は買ってあげますから、名まえを書いておきなさい。」といって、お母さんはボールを買うお金をくださいました。

「ありがとう!」と、正ちゃんはいただいて、元気よく出かけました。

「やさしいいいお母さんだなあ。」と、正ちゃんは心の中で思ったのです。

正ちゃんは新しいボールを買って、それに「二年一組 山本正治」と書きました。正ちゃんの帽子にもハンカチにも、けしゴムにも、みんなそう書いてありました。だから、学校の中でおとせば、拾った人が先生にとどけてくれますので、また自分のところへもどってきました。たとえ学校の外でも、正直な人なら、

「ああ、あの学校の生徒さんがおとしたのだな。」といって、学校へとどけてくれました。

正ちゃんはお家へかえって、「ただいま」をすると、お母さんのところへいって今日買ったボールをお見せしました。

「いいんですね。名まえを書きましたか。今年から二年生ですよ。」と、お母さんが注意をなさいますと、正ちゃんは、

小川未明の他の作品