土城廊
本文約25,500字 ・ 読了時間 約52分
あらすじ(AIが作成しました)
鉄道踏切近くの土城廊に集う貧しい人々は、激しい雨の中で極限の生活を送る。稼ぎの少ない先達一家を支える元三爺は、先達夫婦の争いや窮乏に巻き込まれながらも、彼らの命の親として関わり続ける。長引く暴雨が土城の決壊を招き、泥流が押し寄せる中、元三爺は泥に足を取られ、濁流の中に呑み込まれていく。濁流が城内を飲み込み、月光に照らされる暗い夜、周囲の土幕民たちは自然の猛威と過酷な現実に直面する。
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一
牛車や荷馬車、貨物自動車等のごったがえしている場末の鉄道踏切を渡ると、左の方へ小さな田圃路が折れている。その辺りからは路もぬかるみ、左右の水溜りでは雨蛙が威勢よく騒いでいた。小雨は音もなく夕暮の沼地をしっとりと濡らしている。
二人が、お互い黙々と歩いている中に、もう辺りは暗くなった。いくらか屠殺場の附近がぼうっと薄明るいだけだった。淡い電灯の光芒は水田の稲の穂がしらを白っぽく照らし、跫音に驚いた雨蛙は田の中へ音を立てて飛び込んだ。家畜小屋からは時たま豚がけたたましく金切声を上げていた。
二人は屠殺場の前を通りしなに幾人かの男達に出遇った。
「今帰るだかね」誰かが口ごもりながら呟いた。
元三爺は何やら話したげに心持ち立ち止りかけたが、白い眼を光らせるつれの男に気後れがして、そのままへーと笑ってついて行った。
「先達、乞食共だで」
男は答えなかった。
古戦場の土城廊は程遠くない所に蜿蜒と連なっていた。傾斜には棒切れや藁屑等で蔽われた土幕小屋が這うように一杯詰っている。そこへ二人が辿り着いた時は、丁度土幕はどれも雨の中にじーんと沈み込んでいた。所々煙が漂うている。二人は用心深そうに土幕の間を縫うて土城の上へ登って行った。高くせり上ったポプラの木は西瓜色の空をゆらゆら掻き乱している。西の方の平野を撫でて来る夕風が、濡れ着をばたばたとなぶる。二人はゆっくりと肩から支械(担具)を取り外すと、それを両手にかかえて西側の傾斜へ影陰のように静かに消え失せた。
爺は自分の土幕に近附いて行くと叺のおおい物をおし開いて大きな図体を這いずり込ませた。生温かい悪臭がむっと鼻息を詰らせ、身動きと共に膝元で藁がかさかさ音を立てる。敷藁も濡れていた。爺は手探りでやっとマッチを探し火台に火をつけた。小屋の中がぱっと明るくなり、焔はひらひらと隙間風に揺れ出した。