天馬
本文約35,300字 ・ 読了時間 約71分
あらすじ(AIが作成しました)
京城の娼家から出た小説家玄竜は、二日後に寺へ修行に入るという運命を背負い、深い憂鬱と孤独の中で迷路のような路地を彷徨う。自身のアイデンティティに苦悩する彼は、周囲の視線や幻聴に翻弄されながら、激しい雨の中で狂気的な行動を繰り返す。混迷する社会と自身の境遇に抗うように、彼は自らの存在を証明しようと必死に叫び、救いを求めて奔走する姿を描く物語である。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
一
ある重苦しい雲の垂れこめた日の朝、京城での有名な廓、新町裏小路のとある娼家から、みすぼらしい風采の小説家玄竜がごみごみした路地へ、投げ出されるように出て来た。如何にも彼は弱ったというふうに暫く門前に佇んで、一体どこから本町通りへ抜け出たものかと思案していたが、いきなりつかつかと前の方の小路へはいって行った。けれど界隈が界隈だけに、地に這うような軒並のいがみ合っている入りくんだ小路の、どこをどう通れば抜け出られるか皆目見当がつかない。右に折れるかと思えば又左の方へはいって行く。やっと左から出て行くと又路地は二つに岐れて立ん坊になるといった工合である。何か深い物思いに沈んで彼はてくてく歩き続けたが、袋小路などに突き当って、はっと思い、辺りを見廻したりした。前といわず、横といわず、大門に赤や青のペンキを塗りたくった、いずれも土壁が今にも崩れ出しそうな家ばかりである。こうして又、黙々と折り返し方々縫い歩く中に、とうとう彼は迷い込んでしまったのだ。そう早くもない時刻だが、どの小路もひっそりとして、時々朝帰りの客が、きまり悪そうに肩をすぼめてふらふらと通り過ぎる。どことも知らず迷い込んだ塩売り爺さんは、やけに、
「塩やーい、塩やい!」