町のある酒屋の小舎の中で、宿無し犬が子供を産みました。
「こんなところで、犬が子を産みやがって困ったな。」と、主人は小言をいいました。これも、小僧たちが、平常小舎の中をきれいに片づけておかないからだと、小僧たちまでしかられたのであります。
「この畜生のために、おれたちまでしかられるなんて、ばかばかしいこった。犬の子を河へ流してきてしまえ。」と、小僧たちは話をしました。
「そんな、かわいそうなことをするもんじゃない。目があいたらどこかへ持っていって捨てておいで。」と、かみさんがいいました。
そのうちに、小犬たちは、だんだん目が見えるようになりました。そして、よちよちと、短い、筆先のような尾をふりながら歩くようになりました。「どうか、もうすこし、子供たちが大きくなるまで、ここにおいてください。」と、あわれな母犬はものをいわないかわりに、目で小僧さんたちに訴えたのであります。けれどそれは許されませんでした。
「だれか、もらいてがあるといいんだがな。」
「警察へつれていくと、一ぴき三十銭になるぜ。君つれていかないか?」
「ばかにするない。晩に、どこかへ、リヤカーに載せて捨ててきてやろう。」と、小僧さんたちは、そんな話をしていたのです。これを聞いた、母犬は、おどろきました。なぜなら、たとえしんせつそうに見える人間でも、そうしたことをやりかねないからです。
「私も、はじめは、何不自由なく、かわいがられたものだ。それを、どういうわけか、いつからともなくきらわれて、私は、ついに、おいてきぼりにされて、飼い主は、どこへかいってしまった。私は、いまでも、その人たちをなつかしく、慕わしく思っているばかりでなく、ご恩を受けたことを、けっして忘れはしない。けれど、こんなことがあってから、人間を信じていいものかわからなくなった……。」と、母犬は考えました。
母犬は、だれにも、気づかれない間に、小犬たちをつれて、そこからほど隔たった、ある森の中に引っ越してしまいました。