生きた人形
本文約4,900字 ・ 読了時間 約10分
あらすじ(AIが作成しました)
ある町の呉服屋で、美しい少女は店先の飾り人形に憧れ、自ら「生きた人形」として店に立つことを決意する。彼女の身の上話が新聞に掲載されると、遠くで画家として働く兄が名乗りを上げ、兄妹は再会を果たす。しかし、彼女を誘拐しようと企む老婆が暗躍しており、追っ手が町へ迫る。緊迫する中で、少女と兄は機転を利かせて逃亡を試みる。老婆らは少女を連れ去ろうと追いすがるが、その手にあったのは本物の人間ではなく、身代わりの人形であった。
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ある町の呉服屋の店頭に立って一人の少女が、じっとそこに飾られた人形に見いっていました。人形は、美しい着物をきて、りっぱな帯をしめて、前を通る人たちを誇らしげにながめていたのです。
「私が、もしあのお人形であったら、どんなにしあわせだろう……。なんの苦労もなしに、ああして、平和に、毎日暮らしていくことができる。そして、前を通る男も、女も、みんな自分を振りかえって、うらやましげに見ていくであろうに……。」と、彼女は、ひとり言をしていたのでした。
このようすを、さっきからながめていた、この店の主人は、頭をかしげました。
「なんという器量のいい娘さんだろう……。しかし、ようすを見ると、あまり豊かな生活をしているとは思われない。さっきから、ああして、人形に見とれているが、ものは相談だ。あの娘さんは、雇われてきてくれないだろうか?」と、主人は考えたのでした。
「もし、もし。」といいながら、彼女のかたわらへ寄って、主人は、軽く、その肩をたたきました。
少女は、びっくりして、振り向きますと、主人が、にこにこした笑い顔をして立っていました。
「おまえさんは、さっきから、なにを考えておいでなさる?」と、主人は、やさしく問いかけました。
少女は、ちょっとはじらいましたが、正直に、
「もし、私が、このお人形であったら、世の中の苦労ということも知らず、そのうえこんなに美しい顔をして、どんなにか幸福だろうと思っていたのです。人間が、なんでも思ったとおりになりさえすれば、この世の中に、不幸というものはないと考えていたのでした。」と、答えました。
人のよさそうな主人は、けたけたと笑いました。
「お嬢さん、あなたのお顔は、この人形よりはよっぽど、美しゅうございますよ。もし、あなたさえ聞いてくださるなら、この人形の着物をあなたにあげて、そのうえ給金もさしあげますから、明日から、人形の代わりになってくださいませんか?」と、主人は、少女に向かっていいました。
「お人形の代わりにですって?」
「そうです。生きた人形となって、この店さきにすわってくださるのです。」