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TORENDIA

銀のペンセル

本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

温泉場の町に滞在していた少年・勇ちゃんは、地元の快活な少年と親しくなり、野山を駆け回って交流を深める。東京へ帰る日が近づく中、勇ちゃんは別れを惜しみ、大切な銀のペンセルを贈ろうとするが、少年は受け取らずに去ってしまう。都会へ戻った勇ちゃんは、少年からもらった高山植物を育てようと試みるが、都会の環境では枯れてしまう。遠く離れた山国の情景と少年の面影を懐かしみ、勇ちゃんは切ない思いを募らせる。

小川未明

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🎧 銀のペンセル / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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三味線をひいて、旅の女が、毎日、温泉場の町を歩いていました。諸国の唄をうたってみんなをおもしろがらせていたが、いつしか、その姿が見えなくなりました。そのはずです。もう、山は、朝晩寒くなって、都が恋しくなったからです。

勇ちゃんも、もう、東京のお家へ帰る日が近づいたのでした。ここへきて、かれこれ三十日もいる間に、近傍の村の子供たちと友だちになって、いっしょに、草花の咲いた、大きな石のころがっている野原をかけまわって、きりぎりすをさがせば、また、水のきれいな谷川にいって、岩魚を釣ったりしたのであります。

「君、もう、じきに東京へ帰るのか。」と、一人の少年が勇ちゃんにききました。

その子は顔がまるくて、色の黒い快活の少年でした。勇ちゃんは、この少年が好きで、いつまでも友だちでいたかったのです。

「君のお家が東京だと、いいんだがな。」と、勇ちゃんは、いいました。

「君のお家こそ、こっちへ引っ越してくれば、いいのだ。」と、少年は答えました。

空の色が、青々として、白い雲が高く野原の上を飛んでゆきます。

あとの子供らは、いつか、どこかへいってしまったのに、その少年ばかりは、名残惜しそうに勇ちゃんのそばから、いつまでもはなれずにいました。

「いいとこへ、つれていってやろうか。」と、少年は先に立って、草を分けて、山の方へ歩きました。

「どこへゆくんだい?」

勇ちゃんは、顔をあげて、いくたびもあちらを見ました。少年は、だまって歩いていましたが、やがて目の前に、林が望まれました。葉風が、きらきらとして、木の枝は、風にゆらめいていました。もう口を開けているくりの実がいくつも、枝のさきについているのでした。

「僕、見つけておいた、いいものを取ってきてあげるから、ここに待っていたまえ。」と、少年は雑木林を分けてはいりました。そして、あちらの、こんもりとした、やぶのところへいって、しきりと、つるをたぐり寄せていました。勇ちゃんは、後ろについてはいる勇気がなく、林の端に、立って待っていると、少年は紫色のあけびの実をいくつも、もいできてくれたのであります。

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