日月ボール
本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
自動車屋を営む清さんは、古びた車を運転し、近所の子供たちに不思議な話を語って聞かせる風変わりな男である。ある日、孝ちゃんに日月ボールで遊ぶ手ほどきをしながら、清さんはかつて山中で見かけたという、金色のボールを練習する謎の男の話をする。さらに、祭りの縁日で目にした、日月ボールを巧みに操り子供たちを誘う露天商の姿を重ね、その実像が何であったかを孝ちゃんに想像させるような、清さんの語る日常と幻想が混ざり合う不思議なひとときを描く。
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孝ちゃんの、近所に住んでいる自動車屋の主人は、変わった人でした。ぼろ自動車を一台しか持っていません。それを自分が、毎日運転して、町の中を走っているのでした。
この自動車も、もとは、りっぱなものでした。主人の清さんが、若い時分、金持ちの運転手を長くつとめていて、やめるときに、金持ちが、その自動車をくれたのでした。それから、何年たったでしょう。
欲のない清さんは、金をためるということをしませんでした。自動車は、だんだん古くなり、破れてきたけれど、新しいのを買うお金はなかったのでした。
この清さんには、いろいろなおかしい話があります。ある日のこと、ひまで困っていました。そこへ美しいモダンガールがやってきました。
「汚い、自動車なのね。いいわ、すぐにやってちょうだい。」と、女はいいました。
「お嬢さん、走るのに、かわりはありません。」と、清さんはにくたれ口をききました。
自動車が走っている間に、美しいお嬢さんは、真っ赤な手さげをあけて、香水のびんを出しました。
その香水の匂いが、たいへんに、いい香いだったとみえて清さんは、運転しながら、夢を見るような気持ちになって、どこを走っているのだか、ぼんやりしました。そのうちに、くぎででもさしたか、ひどい音がして、タイヤがパンクしました。清さんは、おどろいて車から降りて、まごまごして、やっと直して動き出そうとして見ると、いつのまにか、女は消えて見えなかったのです。
「まるで、きつねにつままれたようだった。」と、思い出すたびに、清さんは笑いました。
そうかと思うと、あるときはみすぼらしいふうをした、おじいさんが、はいってきて、
「すこし、遠方だが、これだけの金でいってくださらんか。孫が、急病だと知らしてきたのだが……。」と、頼みました。
「まいりましょう。」と、気持ちよくいって、清さんは、おじいさんを乗せていってやりました。
清さんは、働いたお金で、みんなお酒を飲みました。酔っているときには、だれにでも、おもしろい話をしました。しかし、それが、みんなほんとうであると、思えないようなのもありました。子供が好きでしたから、近所の子供たちがよく遊びにやってきました。