TRENDIA CLASSIC

小川未明

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「なにか、楽しいことがないものかなあ。」と、おじいさんは、つくねんとすわって、考え込んでいました。

こう思っているのは、ひとり、おじいさんばかりでなかった。町の人々は思い思いにそんなことを考えていたのです。しかし、しあわせというものは、不幸と同じように、いつだれの身の上へやってくるかわからない。ちょうど、それは風のように、足音もたてずに近づくものでした。また、だれもかつて、しあわせの姿というものを見たものはなかったでしょう。

こうして、たくさんの人たちが、てんでに自分の身の上にしあわせのくるのを待っていました。

「しあわせは、いま、どこを歩いているかしらん……。そしてだれのところへ、やってくるかしらん……。」

こう考えると、まったく、不思議なものでした。そして、このしあわせにも、大きなしあわせと小さなしあわせとあったことは、むろんです。けれど、ダイヤモンドは、いくら小さくても美しく、光るように、それが、たとえ、小さなしあわせであっても、その人の一日の生活を、どんなにいきいきとさせたかしれません。

おじいさんは、なにか楽しいことがあるのを待っていました。いつものごとく火ばちにあたって考え込んでいました。すると、毎日のように、あちらの町の方から起こってくるいろいろな音色が、ちょうど、なつかしい、遠くの音楽を聞くように、おじいさんの耳に達してきたのでした。

おじいさんは、だまって、じっとして、その音に耳を傾けていました。すると、このいろいろの音色の中から、ひとつ離れて、細く澄んだ音が、おじいさんの魂を引きつけるように、呼びかけているのが聞こえたのです。それは、笛の音に似ていました。

「あれは、なんの音だろう?」と、おじいさんは、思いました。

おじいさんは、その音を聞いているうちに、だんだん、気持ちがさわやかになってきました。そして、家にばかりいたのでは、気がふさいでしかたがない、町へ出て、歩いてみようという考えが起こったのです。

「寒いけれど、降りもしまいな。」といって、おじいさんは、つえをついて、とぼとぼと外へ出かけました。

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