船でついた町
本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
商売で莫大な財を成した男は、困窮者からの度重なる要求に苦しみ、都会から逃げ出すように船に乗る。流れ着いた平和な港町で、欲を捨てて自然と調和して生きる住民の姿に触れた男は、これまでの自身の生き方を振り返る。富の蓄積や競争とは無縁の静かな場所で、争いのない本来の人のあり方について思いを巡らせ、夢見るような穏やかな境地に包まれていく心の変遷を描く。
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たいへんに、金をもうけることの上手な男がおりました。人の気のつかないうちに、安く買っておいて、人気がたつとそれを高く売るというふうでありましたから、金がどんどんたまりました。
土地でも、品物でも、この男がこうとにらんだものは、みんなそういうふうに値が出たのであります。この男と、こういうことで競争をしたものは、たいてい負けてしまいました。そして、この男は、いつかだれ知らぬものがないほどの大金持ちとなったのであります。
ある年、たいそう不景気がきたときです。あわれな不具者が、この金持ちの門に立ちました。
「どうぞ、私をご主人にあわせてください。私は、もとあなたの会社に使われたものです。」といいました。
番頭は、しかたなく、これを主人に伝えました。
「ああそうか、私が出てあおう。」といって、金持ちは、玄関へ出ました。すると、不具者は、
「その後、不幸つづきで、そのうえけがをして、こんなびっこになってしまいました。働くにも、働きようがありません。どうぞ、めぐんでください。」と、訴えました。
金がたまると、だれでも、やさしくなるものです。ことに、この金持ちは、涙もろい性質でありましたから、
「それは、困るだろう。」といって、めぐんでやりました。あわれな男は、喜んで帰ってゆきました。
すると、翌日は、別の不具者がやってきました。
「私は、片腕をなくなしました。働くにも働きようがありません。どうぞ、おめぐみください。」と、訴えました。
金持ちは、なるほど、それにちがいないと考えましたから、いくらかめぐんでやりました。
一日に、二人や、三人は、金持ちにとって、なんでもなかったけれど、いつしか、このうわさがひろまるにつれて、十人、二十人と、毎日金持ちの門の前には、もらいのものが黒い山を築きました。
不具者ばかりでない、なかには、働けそうな若者もありました。そういうものには、金持ちが、きびしくただしますと、内臓に病気があったり、また探しても仕事がなかったり、聞けば、いろいろ同情すべき境遇でありまして、一人に与えて、一人に断るということができなかったので、しかたなく金持ちは、みんなに金を分けてやりました。