雪くる前の高原の話
本文約5,000字 ・ 読了時間 約10分
あらすじ(AIが作成しました)
山から石炭を運ぶトロッコのレールや、厳しい自然環境に身を置くすぎの若木、赤く色づいたつたの葉、そして寒さの中を飛ぶ一ぴきのはちをめぐる出来事を描く。石炭は街への旅を夢見て語らい、はちは冬の隠れ場所を模索する。一方、レールを固定するさびたくぎは、はちの言葉に耳を傾けて役割を解き、トロッコの脱線をきっかけに高原の静寂は打ち破られる。やがて、冷え切った大地に雪が降り積もり、冬の訪れとともに物語は静かに幕を下ろす。
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それは、険しい山のふもとの荒野のできごとであります。
山からは、石炭が掘られました。それをトロッコに載せて、日に幾たびということなく高い山から、ふもとの方へ運んできたのであります。ゴロッ、ゴロッ、ゴーという音をたてて石炭を載せた車は、レールの上をすべりながら走ってゆきました。そのたびに、箱の中にはいっている石炭は、美しい歯を光らしておもしろそうに笑っていました。
「私たちは、あの暗い、寒い、穴の中から出されて、この明るい世界へきた。目にうつるものは、なにひとつとして珍しくないものはない。これから、どこへ送られるだろう?」と、同じような姿をした石炭は語り合っていました。
だんまり箱は、これに対してなんとも答えません。むしろ、それについて知らないといったほうがいいでありましょう。しかし、レールは、そのことをよく知っていました。なぜなら、自分の造られた工場の中には、たくさんの石炭を見て知っているからであります。いま、石炭がゆく先をみんなで話し合っているのを聞くと、ひとつ喜ばしてやろうとレールは思いました。
「あなたがたは、これから、にぎやかな街へゆくのですよ。そして、働くのです……。」といいました。
石炭は、ふいにレールがそういったので、輝く目をみはりました。
「私たちは、工場へゆくんですか? そんなようなことは山にいる時分から聞いていました。それにしても、なるたけ、遠いところへ送られてゆきたいものですね。いろいろな珍しいものを、できるだけ多く見たいと思います。それから私たちは、どうなるでしょうか……。知ってはいられませんか?」と、石炭は、たずねました。
レールは、考えていたが、
「あなたがたが、真っ赤な顔をして働いていなされたのを見ました。そのうちに、見えなくなりました。なんでも、つぎから、つぎへと、空へ昇ってゆかれたということです。考えると、あなたがたの一生ほどいろいろと経験なさるものはありますまい。私たちは、永久に、このままで動くことさえできないのであります。」と、レールはいいました。