それは、険しい山のふもとの荒野のできごとであります。
山からは、石炭が掘られました。それをトロッコに載せて、日に幾たびということなく高い山から、ふもとの方へ運んできたのであります。ゴロッ、ゴロッ、ゴーという音をたてて石炭を載せた車は、レールの上をすべりながら走ってゆきました。そのたびに、箱の中にはいっている石炭は、美しい歯を光らしておもしろそうに笑っていました。
「私たちは、あの暗い、寒い、穴の中から出されて、この明るい世界へきた。目にうつるものは、なにひとつとして珍しくないものはない。これから、どこへ送られるだろう?」と、同じような姿をした石炭は語り合っていました。
だんまり箱は、これに対してなんとも答えません。むしろ、それについて知らないといったほうがいいでありましょう。しかし、レールは、そのことをよく知っていました。なぜなら、自分の造られた工場の中には、たくさんの石炭を見て知っているからであります。いま、石炭がゆく先をみんなで話し合っているのを聞くと、ひとつ喜ばしてやろうとレールは思いました。
「あなたがたは、これから、にぎやかな街へゆくのですよ。そして、働くのです……。」といいました。
石炭は、ふいにレールがそういったので、輝く目をみはりました。
「私たちは、工場へゆくんですか? そんなようなことは山にいる時分から聞いていました。それにしても、なるたけ、遠いところへ送られてゆきたいものですね。いろいろな珍しいものを、できるだけ多く見たいと思います。それから私たちは、どうなるでしょうか……。知ってはいられませんか?」と、石炭は、たずねました。
レールは、考えていたが、
「あなたがたが、真っ赤な顔をして働いていなされたのを見ました。そのうちに、見えなくなりました。なんでも、つぎから、つぎへと、空へ昇ってゆかれたということです。考えると、あなたがたの一生ほどいろいろと経験なさるものはありますまい。私たちは、永久に、このままで動くことさえできないのであります。」と、レールはいいました。