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TORENDIA

日記より

本文約1,500字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

滅茶苦茶な睡眠習慣を送る「私」は、見舞いのため汽車で移動し、銀座で佇む孤独な自身の姿に幻影を見る。その後、眠りと覚醒の混濁の中で文学への焦燥や、カカシの唄を歌う子供の記憶、世界文学物語の一節がもたらす情緒的なリズムについて思考を巡らせる。時間の区分が曖昧な二、三日の日常の断片を綴り、日記という形式を通して自己の心理的な揺らぎや、海辺の散策を心待ちにする日々のあり様を描く。

牧野信一

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🎧 日記より / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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私の日記には日の区ぎりがつけにくい、寝て、起る時間が、いつもあまりに滅茶苦茶だから――。

*

三人の友達が夫々不気嫌の床に就いてゐるので、だが一人は快く起き上つたといふことはきき、暫く会ひ損つてゐるので、会ひたく、兎に角三人のうちの一人でもを見舞ふつもりで汽車に乗つた。銀座へ出て、傍目も触らずに非常な速歩で歩いてゐると、だんだんに、どうして好いか解らない程な愴忙な気分に襲はれてしまつたのだ――私は、「オアシス」の酒つぎ台に肘をのせてゐた。何とかいふ命題をつけてもいゝ彫刻の立像だつた。そして間もなく沈酔を蓄へた奇妙な立像だつた。――私は誰と何の口をきくこともなしに夜半の汽車で逆戻りしてゐた。

非常に疲れたらしい、非常に好く、ながく眠り続けたらしい――いつ頃か、(綺麗な陽がさしてゐた。)誰かに無理に起されて、この客は私の寝室へ踏み込んで有無も云はさず私を地蔵起しにした。――さうだ! 私は云つた、目が醒めさへすれば文学々々々々そればかりを口にしてゐながら如何して斯う文学の仕事ははかどりにくいものだろう、何の魅力か? 何の因果か? 何時何処のステーシヨンで僕は斯んなタヴレツトをうけとつてしまつたんだらう、夏も秋もありはしない、この! 何時来るとも解らない列車を待ちながら凝然と吹きさらしのプラツトホームに立つて三角のタヴレツトを捧げてゐるこの駅長に僕は痛烈な皮肉を感ぜずにはゐられない、この頃吾家の子供がね、カヽシの唄を覚えてね、歌ふの歌はないんぢやない、天気の好イノニ簑笠ツケテ、一本アシノカヽシ、朝カラ晩マデターダ立チドオシだつてさ、山デハカラスガカアカトワラフ、アールケナイノカ山田ノカヽシ! だつて、まさか君折角好い心地で歌つてゐる子供に向つて、その歌はお父様は好かないから止めて呉れとも云へないしね、どうもね君、君は描けたか? 僕は今……そんなことを云ひながらまた其処に倒れて眠つてしまつたのだ。

目が醒めると彼等は未だ飲んでゐた。寝言で、はつきりと何々のマーチを口吟み、「題は知らない。」などゝ云ひ、また異人の名を呼んだ! と云つて皆がわらつた。

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