秋が深い頃だ
本文約640字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
小田原の自宅で酩酊した著者が、酒井という知人へ宛てた書簡を綴る。タイガーカフェでの再会を回想しつつ、編集後記を読んで感じた憂鬱や、夏の間フンドシ姿で過ごした小田原での生活について記す。季節が秋へと移ろい、栗や柿が実る日常の風景の中で、友人への親愛と自身の近況を奔放な筆致で書き連ねていく。
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酒井君! いつかは失敬! あれはタイガア・カフエだつたかしら? そしてこの前の君の手紙もああいふわけで(?)失敬したよ。
手紙ありがたう、今もとても気の利いた感想なんてあるはずはないんだけれど、君の編輯後記を見ると、原稿を送つても寄こさない奴! 何とまあいやな奴なのだらうと云ふやうな意味がかいてあつたので、(そんなことがかいてあつたのかしらん、ほんたうに!)僕ちよつと憂鬱をおぼえ、そして、こんなに酩酊してゐるんだが、期日も間に合はぬだらうと思ひ、皆な皆な、ちよつと彼方へ行つておくれ、俺は今! 手紙を書かなければならないんだ――とまあ、かうあたりの者をしりぞけて、この紙に向つたのだ。
酔つてゐると云つたつてオダハラの吾家だよ、にくむ勿れ、間もなく酒樽も空らしい。
タイガアで君に会ひ、その後一ト月ばかり後にまた行つたので、酒井さんはゐないか? ときいたら、昨今はお見えになりませんと云ふので――邦楽座へ行つて、「オレンジみのる頃」とかいふのを見た。それきり、どうも、東京へ行かないらしい、恋しくもない。小田原も厭だ。夏の黒さが次第に薄れて行く、背中の――。
夏中、フンドシひとつで暮したので稀に涼しくなつて着物など羽おると、変だ! でもハイカラな浜でなくて幸せさ、若し、オダハラでなかつたら、あんなミナリで泳いでゐたら、とうに、つかまつてしまつたらうよ。
また書かう、これは手紙として棄ててしまへば幸ひだ、ともかく走筆で、くどいけれど、また、失敬!
君の健康をいのる。酒は悪いが、栗と柿が盛んだ。
完