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TORENDIA

なつかしき挿話

本文約1,500字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

震災後の東京で雑誌の劇評を担当した筆者が、吉井勇の戯曲「魔笛」を観劇した際の回想を綴る。学生時代からの親友へ宛てた手紙の形式で、放蕩にふける友人と満蒙から帰還した友人の再会劇に、自身の生活への渇望と親友への思いを重ねる。また、同様に印象に残る「小しんと焉馬」に触れ、吉井戯曲が描く友情の問題や詩情あふれる世界観に、筆者が長年抱き続ける甘美な陶酔感と変わらぬ愛着を記す。

牧野信一

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🎧 なつかしき挿話 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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震災後、未だ雑誌「新演芸」が花やかであつた頃、作家の見たる芝居の印象――といふやうな欄があつて、僕も二三度此処に登場したことがある。そして、そのうちの二つが吉井勇作の芝居であつたことを憶へてゐる。一つは「魔笛」と題する――これは新聞であらう、長篇小説を別に芝居として仕直されたものだつた。僕はその時の印象を外国に留学してゐる友達へ宛てた手紙体として書き綴つたことを憶へてゐる。

「魔笛」の筋は回想出来ぬのであるがたしか、その中の人物に、学生時代から大変に親しかつたA、Bの二人物があつて、二人は学校を出るとAは富有な親の遺産を享け継ぎ、Bは飄然として満蒙方面へ姿をかくしてしまふといふやうな状態に変るのであつた。その間幾年経過――Aは、様々な家庭上の破乱に災されて何時の間にかゝら、放蕩飲酒の徒と変じて、遣瀬なく無頼の日を送つてゐた。そのうち満蒙の長い放浪から帰つて来たBと、無頼のAがはからずも途上で出遇ふのであつた。Bは(人物の名前を忘却した。)恰も荒尾譲介(配役伊井蓉峰)の再現であるかのやうな意気と熱と感慨に打たれながら、Aの昔に変つた姿を眺めて悲憤の涙をこぼすのであつた。

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