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TORENDIA

驚いた話

本文約1,000字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

真夜中の深い憂鬱から逃れるため、鎧を纏って模型のように静止する習慣を持つ語り手。ある夜、鎧姿で暗い街道を彷徨い歩いていた彼は、正体不明の物凄い叫び声を聞き、驚愕して帰宅する。翌晩、村の居酒屋では烏天狗の目撃談が話題となり、語り手は村人たちと共に仁王門付近の森へ出向く。怪異を確かめようと向かった一行が、森で何かに遭遇して散り散りに逃げ出す様子と、その後も続く恐怖を綴る。

牧野信一

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🎧 驚いた話 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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去年の冬であつた。私は非常に憂鬱であつた。身も世もなく憂鬱であつた。真夜中に至るに伴れて私のそれは私の魂をも奪つた。私は、何うする事も出来なくなつて、床の間に人型を作つて飾つてある鎧を身につけ、面当を被り、冑も執つて、真夜中の床の間に幾時間も凝つと模型になつてゐることがあつた。そして吾身の、此世に在ることを、せめても忘れたかつた。――

その夜も私は灯火を消して、框に掛けた鎧の中に凝つとこの身を閉ぢ込んで、怖ろしい無念無想に沈湎してゐた。

何時の間にか私は、街道に迷ひ出てゐた。静かな闇の夜であつた。冑が、深く鼻まで覆ふほどで、闇夜でなくとも、私の眼の先は殆んど真ツ暗であつた。私は、面あての口腔から外を見れば見る――それほど、それは私の身に不釣合であつたので、一層私は殆んど目を瞑つて、よたよたと歩いてゐた。たしかにこの方法は、頑固な私の憂鬱を想外のものとすべき奇妙な効果があつた。

不図私は、私の身近かに、

「ギヤアーツ!」といふ、おそらく嘗て地上では聞いた験しのない物凄い叫声に打たれた。同時に私も爆弾のやうに仰天して、

「ギヤアーツ!」(?)といふ悲鳴を挙げた――私は、何うして自分の部屋にとつて返したか覚えはなかつた。

(私は、斯んな突飛な驚きを経験したことはない。)

翌晩私は、素面の夜は決して堪へられぬので、泥酔すべき覚悟をきめて村境ひの居酒屋に出向くと、酒場の隅で次のやうな話に花が咲いてゐた。(その一節。)

「仁王門を抜けて行くと、あの銀杏の傍らに、ぬうツと烏天狗が立つてゐるんだ。よく/\見とゞけてやらうと思つて、近寄ると、ふつと、もう姿は消えてゐたといふことだが――」

「まさか、烏天狗ぢやあるまい。誰かの悪戯に違ひないさ。」

「あの人が此処を出たのが一時頃だつたから、恰度丑満時だらう。今夜も出るかも知れないから、皆なで正体を見とゞけに行かうではないか。」

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