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TORENDIA

水車小屋の日誌

本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

水車小屋で暮らす「僕」は、同居する平次と倉造に誘われ、近隣の茶屋へ酌女を訪ねることを計画する。龍太への手紙を執筆するなかで現実と抽象の観念に没入し、書き上げた手紙を携えて駅へ向かう。一方、同行の倉造は夢中で眼を突き義眼を破損し、修理のため町へ赴く。やがて帰還した倉造と、水車の轟音のなか無言のやり取りを交わしつつ、夢のように閉塞した日々を送るなかでの、自身の内面と周囲の出来事を綴る。

牧野信一

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🎧 水車小屋の日誌 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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一

今度東京へ戻つてからの住むべき部屋を頼む意味の手紙を八代龍太に書くつもりで、炉端で鉛筆を削つた。酒を飲んでゐる平次と倉造が、茶わんの杯をさして、村境の茶屋に三味線の技に長けたひとりの貌麗しい酌女が現れてゆききの遊冶郎のあぶらをしぼつてゐるとのことであるから見参に赴かうではないかと誘つた。賛成の旨を応へ、手紙一本書く間を待ち給へ、と二階へあがつた。窓からは、暮色の波に揺れる一面の稲田が、もう遥の山々は空との境もなく深い宵暗に閉ざされてゐるので――沼の観であつた。向ふ岸に一点の灯が見ゆるのだ。茶屋の灯である。村里を左様に離れた畑中に、ひとり花やかな館を営む所以を不思議と思つたところが、彼は同村民を野蛮で吝嗇の徒と排して、夙に街道の旅人を招ぶべき念であつたとのことである。茶屋の者達は努めて都の言葉を用意して、村言葉の連中をわらふとの由だつた。

龍太への手紙を書かうと紙に向つてゐると、抽象的観念の実在――斯んな文句がいつものやうに口をつくと、例によつて全身に異状な熱湯の竜巻が萌して二枚三枚五枚と書きつゞけ、終ひに七枚となつた時、不図窓の向方を眺めると、山の頂きがほの白んだ空の裾に青黒く鮮明な隈どりを描き、いなご取りの群がたんぼ道へ繰りだす明方であつた。炉端へ来て見ると平次と倉造が各々拳を固め、胸板と太もゝを張り自暴のかたちで熟睡してゐた。若しもそのまゝ二人を地蔵起しにして、台石の上に立てかけたならば二体の仁王像であると思はず戦いた。倉造の左眼は義眼であり、また平次は、当人の言によると激しい疳癖性のために睡眠中にも眼ぶたを伏せぬ癖とのことを聞いたが、はつきりとその証拠を見、また義眼者の眠れる表情の怪奇に戦竦した。

二

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