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TORENDIA

緑の軍港

本文約3,700字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

軍港街に移り住んだ男は、海軍の進水式や軍歌に胸を躍らせ、模型作りや作業服での生活を通じて艦隊への憧れを深める。ある夜、隣室の住人と勘違いして部屋へ転がり込んできた水兵が、銀笛を握りしめて眠り込む様子を目にする。その翌朝、艦隊が出港し、笛の音は消えた。季節が巡り、再び艦隊が帰港して街が活気に満ちる中、男はふと窓の下で青葉の笛の音を耳にする。かつて聞いた銀笛の音色を思い出しながら、男は消夏の憬れを抱く。

牧野信一

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🎧 緑の軍港 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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いつの間にかわたしの部屋の壁には、いろいろな軍艦の写真が額になつて、あちこちに並び、本棚の上には「比叡」と「那智」の模型が飾られ、水雷型の筆立には巡洋艦「鈴谷」進水式紀念の軍艦旗とZ旗があつた。「比叡」と「那智」の模型は、それぞれわたしが拝乗の機会に浴した思ひ出の為に材料を買ひ集めて組み立てたものである。近日中にエンヂンを取り付けて競技会へ出場させて見ようと考へてゐる。わたしは去年の秋、軍港街に移ると間もなく「鈴谷」進水式拝観の光栄に浴し、続いて駆逐艦「しぐれ」特務艦「剣崎」の進水式に参列の栄を得て、ひたすら胸を躍らせ、行状の謹慎を保つた。わたしの壁の写真の中には閃く海神鉾に翻へる久寿玉から五彩のテープが舞ひ乱れ、翼の音も軽やかな数羽の鳩が放たれた瞬間に堂々たる巨体を、あはや麗かな海上へ乗り入らうとする処女艦の英姿があつた。

わたしはさういふ自分の小さな部屋で、造船作業の為に夜を更かすことが多かつた。五分刈頭のわたしは、夜になると、街の被服商で購つて来た海兵用の白の作業服を着て、一服喫すといふ場合には、徐ろに胸のポケツトから、先頃「しぐれ」進水式の折に拝領した銀製のシガレツト・ケースを取り出し、高射砲型のライターからパチンと火をつけた。

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