TRENDIA CLASSIC

赤い船のお客

小川未明

1 / 4

ある、うららかな日のことでありました。

二郎は、友だちもなく、ひとり往来を歩いていました。

この道を、おりおり、いろいろなふうをした旅人が通ります。

彼はさも珍しそうに、それらの人たちを見送ったのであります。

二郎は、こうして街道を歩いてゆく知らぬ人を見るのが好きでした。

さまざまなことを空想したり、考えたりしていると、独りでいてもそんなにさびしいとは思わなかったからです。

暖かな風が、どこからともなく吹いてくると、乾いた白い往来の上には、ほこりが立ちました。

まだ、おそ咲きのさくらの花が、こんもりと、黒ずんだ森の間から見えるのも、いずれも、なつかしいやるせないような気持ちがしたのであります。

その日も、二郎は独りあてもなく、街道を歩いていました。

車の音が、あちらへ夢のように消えてゆきます。

薬売りかなぞのように、箱をふろしきで包んで負った男が、下を向いて過ぎていってからは、だれも通りませんでした。

二郎は、寺の前の小さな橋のわきに立って、浅い流れのきらきらと日の光に照らされて、かがやきながら流れているのを、ぼんやりとながめていました。

彼はほんとうに、このときはさびしいと思っていたのであります。

ちょうど、このとき、奥深い寺の境内から、とぼとぼとおじいさんがつえをついて歩いて出てきました。

おじいさんは、白いひげをはやしていました。

二郎は、そのおじいさんを見ていますと、おじいさんは、二郎のわきへ近づいて、ゆき過ぎようとして二郎の頭をなでてくれました。

「いい子だな、独りでさびしいだろう。」と、おじいさんはいいました。

二郎は黙って、おじいさんの顔を見ていました。

おじいさんは、たもとの中から、短い笛を取り出しました。

「この笛を坊やにやるから、あちらの丘へいって吹いてごらん。これはいい音が出るよ。」といいました。

二郎はおじいさんから、その笛をもらいました。

おじいさんの顔は、いつも笑っているように柔和に見えました。

おじいさんは、あちらへつえをつきながらいってしまいました。

二郎はその笛を持って、あちらの砂山にゆきました。

このあたりは海岸で、丘には木というものがなかったのです。

小川未明の他の作品