TRENDIA CLASSIC

すみれとうぐいすの話

小川未明

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小さなすみれは、山の蔭につつましやかに咲いていました。そして、いい香りを放っていました。

すみれは、そこでも、安心をしていることは、できなかったのです。なぜなら、そのすみれをたずねてくるものは、ひとり、美しいちょうや、かわいらしいみつばちばかりではなかったからです。

「ここにも、すみれが咲いていた。とって香りをかいでごらんなさい。いい香りがするから。」と、山に遊びにきた、子供たちはいったのです。

すみれは、自分ほど、不幸なものは、この世の中に、ないと思いました。小さな体で、しかも、ものの蔭に、つつましく咲いているのを、それすら安心ができなかったからです。

「ああ、わたしほど、不しあわせなものはない。」と、すみれは、ため息をしました。

そのとき、そばから、名もない草がいいました。

「すみれさん、あなたは、あんまり美しく生まれてこられたからです。そして、いい香りをもっていなさるからです。私のように、粗末に生まれてきたものは、ちょうや、はちなどというきれいなものに、振り向かれないかわり、まあ、無事といえばいえるのです。どちらがいいかわかったものでありません。そう、歎くにはおよびませんよ。」と、皮肉のようになぐさめるように、いったのでした。

これを聞くと、すみれは、寒い風に、小さな頭を振りながら、

「いいえ、わたしは、自分の不安な生活のことを考えると、もう、ちょうにも、みつばちにもきてもらわなくてもいいのです。どうか、あなたのように、安心した生活を送りたいものです。」と答えました。

しかし、名もない草は、もうあきらめているというふうで、

「そういったって、しかたのないことです。」といったきり、黙ってしまいました。

このとき、どこからか、一羽のうぐいすが飛んできて、そばの木の枝に止まりました。そして、いい声でさえずりました。

この声をきくと、すみれは、なんといういい声だろうと感心しました。

「なぜ、わたしは、鳥になって生まれてこなかったろう。そして、ああしたいい声で鳴くことができたら、どんなにうれしいであろう。」と思いました。

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