TRENDIA CLASSIC

花咲く島の話

小川未明

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この広い世界の上を、ところ定めずに、漂泊している人々がありました。それは、名も知られていない人々でした。その人々は、べつに有名な人間になりたいなどとは思いませんでした。彼らの中には、唄うたいがあり、宝石商があり、また、手品師などがありました。

ある晩のこと、港町の小さな宿屋に、それらの人々が泊まり合わせました。

「私などは、こうして幾年ということなく、旅から旅へ、歩きまわっています。」と、手品師がいいました。

「私とて、同じことです。」と、宝石商はいいました。

「みんな、ここにおいでなさる人たちは、そうでしょう。私なども、やはりその一人ですが、ふるさともなく、家もないということは、気楽にはちがいありませんが、ときどき雨の降る日など、独り考えてみて、さびしくなることがあります。それで、そんなときは、せめて、この地球の上に、どこででもいいから、ふるさとというものがあったら、はりあいがあろうと思うことがあるのです……。」と、唄うたいがいいました。

「ほんとうに、そうです。」

「いや、あなたのおっしゃるとおりです。」

宝石商も、手品師も、同感して、答えました。

このとき、そばで、この話をだまって、聞いていた男があります。男は、口をいれて、

「みなさん、私といっしょに、おいでになりませんか。私のいるところは、それはいいところでございます。」といいました。

みんなは、その男の方を向いて、その男を見ました。

「あなたは?」といって、その男がなんであって、どこの人かと思ったのであります。

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