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TORENDIA

酒屋のワン公

本文約3,000字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

孤児院から酒屋へ奉公に出た少年は、幼い頃の過酷な労働で足が曲がった姿から「ワン公」と呼ばれ、周囲から冷遇される日々を送る。ある日、店で飼われていた犬をかばったことで三味線弾きの女性と親しくなり、彼女の優しさに触れる。雷雨の中で孤独を噛みしめ、月に自身の不遇を訴える少年を、その女性が訪れる。少年は自分を救い出そうと現れた彼女と共に、新しい人生を歩むため、酒屋から遠い場所へ旅立つ。

小川未明

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🎧 酒屋のワン公 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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酒屋へきた小僧は、どこかの孤児院からきたのだということでした。それを見ても、彼には、頼るものがなかったのです。

ものをいうのにも、人の顔をじっと見ました。その目つきはやさしそうに見えたけれど、なんとなく、不安な影が宿っていました。

「もしや、自分のいったことが、相手の心を傷めて、しかられるようなことはないかしらん?」と、思ったがためです。

世間の心ある親たちは、そのようすをながめたときに、「親のない子は、かわいそうなものだ。」といいました。

彼は、十二、三になりましたが、年のわりあいに脊が低かった。そればかりでなく、歩く時分、二本の短い足が内輪に曲がっているから、ちょうどブルドッグの歩くときのような姿を想像させたのでした。そのことから、いつしかだれいうとなく、「酒屋のワン公」と、呼ぶようになりました。そして、この哀れな少年の本名すら知るものがありません。彼は、ついに、いつもこのあだ名で、ワン公、ワン公と呼ばれていたのです。

この少年の足は、生まれながらにして、こんなふうに、曲がっていたのではなかったのでした。不幸な境遇は、やっと、六つか七つぐらいになった時分から、赤ん坊をおぶわせられて、守りをしたからです。そして、まだ、柔らかな足の骨は、体に過ぎた重みを与えたために曲がったのでした。

彼の歩きつきを笑う、だれがこのことを知りましょう?

しっとりとした、静かな夏の夕暮方であります。圃に立っている、とうもろこしの、大きな垂れさがった葉に腰をかけて、馬追いが、知っているかぎりの唄をうたっていました。

さわやかな風が、中空を吹きわたりました。いつ出たか、まんまるな月が、にこやかに、こちらを見て笑っていました。

「たいへんに精が出るな。」と、月はいいました。馬追いはびっくりして、二本の長いまゆ毛を動かして、声のした空を仰ぎながら、

「あのやさしい、酒屋の小僧さんが、さっきから熱心に聞いていてくれるものですから……。」と、答えたのです。

これを聞くと、月は、心配そうに、林の間から頭を振りました。ちょうど、それと同時でした。

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