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TORENDIA

指導者としての寺田先生

本文約4,200字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

物理学者・寺田寅彦の門下生である中谷宇吉郎が、師の逝去を悼み、その指導者としての姿と科学者としての業績を綴る。弟子たちに惜しまれながら生涯を閉じた寺田の、温情深い人柄や科学的探求の姿勢を回想する。また、火花放電の研究を通じて見出された現象の統計的法則や「形の物理学」という新たな視点、そして専門外の本を読むことの大切さを説く師の教えを詳述し、その独創的で先見性に満ちた研究哲学と師への深い敬慕の念を描く。

中谷宇吉郎

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🎧 指導者としての寺田先生 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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先生の臨終の席に御別れして、激しい心の動揺に圧されながらも、私はやむをえぬ事情のために、その晩の夜行で帰家の途に就いた。同じ汽車で小宮さんも仙台へ帰られたので、途中色々先生の追想を御伺いする機会を与えられた。三十年の心の友を失われた小宮さんは、ひどく力を落された御様子でボツリボツリと思い出を語られた。常磐線の暗い車窓を眺めながら、静かに語り出される御話を伺っている中に、段々切迫した気持がほぐれて来て、今にも涙が零れそうになって困った。小宮さんが先生の危篤の報に急いで上京される途次、仙台のK教授に御会いになったら、その由を聞かれて大変愕かれて、「本当に惜しい人だ、専門の学界でも勿論大損失だろうが、特に若い連中が張合いを失って力を落すことだろう」といわれたという話が出た。その話を聞いたら急に心の張りが失せて、今まで我慢していた涙が出て来て仕様がなかった。

先生の直接の指導を受けた門下生は誰でも皆、先生の死に遭ってすっかり張合いを失って、何をする元気もなくなってしまったように見える。この事が指導者としての寺田先生の全貌を現わしているのではないかと自分には思われる。どの学問でもそうであろうが、特に物理学の方面では、本当の意味の指導ということは非常に困難な事であって、先生の予期されるように弟子たちはなかなか進歩しない。或る時先生はS教授に、「君、若い連中を教育するには、無限に気を長く持たなければいかんよ」といわれた由を、同教授から聞かされたことがある。

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