たくさんな金魚の子が、おけの中で、あふ、あふとして泳いでいました。体じゅうがすっかり赤いのや、白と赤のまだらのや、頭のさきが、ちょっと黒いのや、いろいろあったのです。それを前と後ろに二つのおけの中にいれて、肩にかついで、おじいさんは、春のさびしい道を歩いていました。
このおじいさんは、これらの金魚を仲買や、卸屋などから買ってきたのではありません。自分で卵から養成したのでありますから、ほんとうに、自分の子供のように、かわいく思っていたのです。
「これを売らなければならぬとは、なんと悲しいことだろう。」
こう、おじいさんは思ったのでした。
春の風は、やわらかに吹いて、おじいさんの顔をなで過ぎました。道端には、すみれや、たんぽぽ、あざみなどの花が、夢でも見ながら眠っているように咲いていました。あちらの野原は、かすんでいました。
いろいろの思い出は、おじいさんの頭の中にあらわれて、笑い声をたてたり、また悲しい泣き声をたてたかと思うと、いつのまにか、跡も形もなく消えてしまって、さらに、新しい、別の空想が、顔を出したのです。
人家のあるところまでくると、おじいさんは、
「金魚やい、金魚やい――。」と、呼びました。
子供たちが、その声を聞きつけて、どこからかたくさん集まってきます。その子供たちは、なんとなく乱暴そうに見えました。金魚の泳いでいる中へ棒をいれて、かきまわしかねないように見えました。おじいさんは、そうした子供たちには、売りたいとは思いませんでした。
「きれいな金魚だね。」
「僕は、こいのほうがいいな。」
「こいは、河にすんでいるだろう。」
「いつか、僕、釣りにいったら、大きなこいが、ぱくぱく、すぐ僕の釣りをしている前のところへ浮いたのを見たよ。」
「赤かったかい。」
「黒かった。すこし、赤かった。」
「うそでない。ほんとうだ。」
その乱暴そうな子供たちは、もう金魚のことなんか忘れてしまって、棒を持って、戦争ごっこをはじめたのです。