沖の方に、光ったものが見えます。海の水は、青黒いように、ものすごくありました。そして、このあたりは、北極に近いので、いつも寒かったのであります。
光ったものは、だんだん岸の方に近寄ってきました。そして、だんだんはっきりとそれがわかるようになりました。それは、氷山であったのです。
氷山はかなり、大きく、とがった山のように鋭く光ったところもあれば、また、幾人も乗って、駈けっこをすることができるほどの広々とした平面もありました。そして、海の水の中には、どれほど深く根を張っているかわからないのでした。氷山は、すべて、こうした水晶のような氷からできています。それが潮の加減で漂ってくるのです。
このあたりの海には、ほとんど、毎日のごとくこうした氷山を見ました。あるときは、悠々として、この大きな氷の塊は、あてもなく流れてゆきました。そして、遠くにゆくまで、その光ったいただきが、望まれたのであります。さびしい、入り日が、雲を破って、その氷山に反射しています。それは、遠く、遠くなるまで、岸に立って、ながめている人たちの目の中に映ったのであります。
また、あるときは、この氷山が、まるで蒸気機関のついている氷の船のように、怖ろしい速力で、目の前を走ってゆくこともありました。しかし、この白い、光る、氷の上には、生きているものの影はまったく見えなかったのです。
ただ、いつのことであったか、こうした氷山が、岸に近づいてきましたときに、人々は、なんだか黒い小さなものが、氷の上に落ちているのを見ました。
「黒い鳥だろうか?」
「鳥なもんか、海馬か、オットセイだろう。」
岸に立って、沖の方を見ている人々は、いいました。
しかし、それが、近づいたときには、大きなくまであることがわかりました。くまはどうかして、陸に上がりたいと、あせっているようでした。きっと、海の上が真っ白に凍ったとき、くまは氷山の上まで遊びに出たのです。そのうちに、氷山が動きだして、陸との間が離れて、もうふたたび陸の方へ帰れなくなってしまったのでしょう。みんなは、くまが、陸へ上がってきてはたいへんだと思いました。どんなに、暴れまわるかしれないからです。