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TORENDIA

胸に手を当てて

本文約560字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

「胸に手を当てて考えて見ろ」という権威ある者からの非難に対し、反論できずに沈黙した過去を抱える詩人が、病床で自らの内面と対峙する。困窮する老母や弟の惨状を前に、自身の肉体をむしばむ過酷な現実は何者によってもたらされたのかを問い、支配層への激しい憎悪を綴る。本書は、社会的な理不尽に対する抵抗の意志と、病に侵された身体の中で静かに燃え上がる魂の叫びを込めた作品である。

今野大力

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🎧 胸に手を当てて / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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かつて私は

悪事をやった立場に立たされた時

こう憎々しげに吐きつけられたものだ、

「胸に手を当てて、よっく考えて見ろ!」

私は今、胸に手を当てて

静かに激しく想っている。

私は悪事をやった為だろうか。

いや、私は悪事をやったのではない

悪事は彼等がやったのだ。

彼等は悪事を犯していながら

私をつかまえて手足を縛しておいて

「お前は悪人だ、

お前等は悪事の張本人だ」

そう頭から、権威をもってどやしたのだ

その時何故、私は言わなかったのだ、

「いや断じてちがう、悪人は手前達だ、その背骨をいまに叩き折ってやる!」と

私は今胸を病んでいる

胸を病んでいる私は胸に手をおいて

胸の中に、鼓動しているかすかな響きをかぞえる

この響きは次第に私の内臓が細菌にむしばまれてゆく、そのかなしい音楽なのだ、

こんな音楽を誰が私の胸にかなでるのか、

かなでるのは私の弱った肉体なのだが、

こんな弱いからだにさせて

あけても、くれても天井ばかりを見つめさせ

私の老母を もう米が一粒もなくなったと言って泣かせたり

私の弟に魂のない人間となって働いてもらわねばならないのは、

「胸に手を当てて考えて見ろ」と言った

あいつらのためなのだ、私はあいつ等を憎悪する

「あいつこそ悪人ではないか! 仮面のあいつこそが」

(『詩精神』一九三五年六月号「今野大力特輯」に発表『今野大力・今村恒夫詩集』改訂版を底本)

完

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