本文へ移動
TORENDIA

虚しい街

本文約480字 ・ 読了時間 約1分

あらすじ(AIが作成しました)

白亜の建物や階段が沈みゆく実体のない街を舞台に、移ろいゆく記憶と荒涼とした情景を詩情豊かに綴る。煤けたランプの灯火や忘れられた椅子の残り香が漂うなか、人々の足音は絶え、凍えた石畳の上で車輪の響きと風だけが激しく交差する。誰もいない街角から逃れるように、深い空間をまたいで移動を続ける光景を通じて、都市の空虚さとその底に潜む哀愁を詩的な言葉で描き出し、崩壊の予兆が漂う情景を写しとる。

森川義信

速度
🎧 虚しい街 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 1

白亜の立体も

ひたむきな断面も

せつない暗さの底へ沈みつつ

沈みつつ

翳に埋れ

影に支へられ

その階段はどこへ果ててゐるのか

はかなさに立ちあがり

いくたび踏んでみたことだらう

煙のある窓ちかく

自ら扉はひらき

そこに立ち去る気配もなかつた

忘れられた木の椅子のほとりから

哀れな水の匂ひがひろがり

脱落するしやつのあとには

あやまちのごとく風が立つた

あのふしあはせな鳶色の時間には

美しい車輪がしづかに動いて

おまへも街をみてゐただらう

ためらひがちな跫音を待ちながら

煤けたらむぷもひとつの灯をともし

そしてやはらかに燃え

まづしい家具の傍には

うつとりするやうな記憶があつたと

いまでは誰が信じ得よう

倒れる音も 出てゆく音も

遠い夕とどろきににて帰らないのか

歩かう

どこかへ行かねばならぬ

誰もみてゐない街角から

むしろ佗しい風の方向へ

実体のない街

深い空間をまたぎ

おびただしい車輪は戻つてきた

壊れた通路を捉へ

凍えた石畳を

踏みにじり走つてゐる

放埓な円心から閃く

炎や煙りの響きがきこえる

はげしい振動のなかで

何を考へようとしたのか

あやまつておまへは倒れた

かぞへきれない扉や支柱も

悲痛によじれ

水平のまま沈んでいつただらう

完

森川義信の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本