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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約10,000字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

両国の見せ物小屋の看板娘お銀が死体で発見される。銭形平次は、その不自然な死に様や着物の合わせ方に疑念を抱き、調査を開始する。座主の百太夫や、姉を慕う軽業師お玉、一寸法師の萬之助ら、一座の面々をめぐる不穏な空気が漂う中、平次は事件の真相と一座に隠された秘密を追い求める。江戸の町で起きた惨劇の裏側で、若者たちの純情や思惑が交錯する様を描く捕物控。

野村胡堂

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一

「親分、變な事があるんだが――」

ガラツ八の八五郎が、鼻をヒクヒクさせ乍ら來たのは、後の月が過ぎて、江戸も冬仕度に忙しいある朝のことでした。

「手紙が來たんだらう、恐ろしい金釘流で、――兩國の蟹澤のお銀が死んだのは唯事ぢやねえ。葬ひの濟まぬうち、檢屍を頼む――と斯う書いてある筈だ」

錢形の平次は粉煙草をせゝり乍ら、少し節をつけて言ふのでした。

「親分は、どうしてそれを?」

ガラツ八は眼を圓くし乍ら内懷を探つて居ります。

「千里眼だよ。八五郎の懷中などは悉く見通しさ。その手紙の入つて居る大一番の野暮な紙入の中に、質札が二枚と、一昨日兩國の獸肉屋で掻拂つた妻揚枝[#「妻揚枝」はママ]が五六本、それから寛永通寶が五六枚入つてゐる筈だ。大膽不敵だね、それで江戸の町を押し廻すんだから」

「ど、どうしてそんな事が分るんです、親分」

ガラツ八の眼の色が少し變ります。

「八五郎さん、騙されちやいけませんよ。此處へもそんな手紙が來たんですよ」

お靜はたまり兼ねてお勝手から助け舟を出しました。

「なんだ、つまらねえ。それならそれと、冒頭つから言へば宜いのに」

「種を明かしちや、どんな手品だつてつまらなくなるよ。――ところで、蟹澤一座のお銀といふのをお前は知つて居るのか」

錢形平次は漸く眞面目な話に還りました。

「江戸中で知らないのは錢形の親分ばかりだ。兩國一番の人氣者で、いやその綺麗なことと言つたら」

「馬鹿だなア、涎を拭きなよ。兩國の輕業小屋の女太夫に夢中になつて、立派な御用聞が毎日通つちや見つともないぜ」

「毎日は通ひませんよ、精々三日に二度」

「呆れた野郎だ。それほど執心なら飛んで行くが宜い。お前が顏を見せなきやお銀も浮ばれまい」

「だから親分も行つて下さいよ。兩國は石原の利助親分の繩張りだが、利助親分は相變らず床に就いたつ切りで、可哀さうにお品さんが獨りで氣を揉んでゐる」

「お品さんのせゐにして、俺をおびき出す氣だらう。まア宜いや、行つて見よう」

「有難てえ」

ガラツ八はいそ/\と先に立つて案内するのでした。

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