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TORENDIA

らんの花

本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

支那料理店で口にした香り高い茶に含まれる白いらんの花に魅了された「私」は、自然の美と金銭的価値の対立を深く考えるようになる。高価ならんを求めて破滅した人の噂を聞く一方で、友人の故郷の山へらんを探しに出かける。谷で見つけた白い花を手に入れようと強欲を抱いた瞬間、天からの声に逆らった「私」は、谷へ墜落して大怪我を負う。以来、「私」は地上に咲く花ではなく、大空をいく神々しい雲を愛するようになる。

小川未明

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🎧 らんの花 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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(この話をした人は、べつに文章や、歌を作らないが、詩人でありました。)

支那人の出している小さい料理店へ、私は、たびたびいきました。そこの料理がうまかったためばかりでありません。また五目そばの量が多かったからでもありません。じつは、出してくれる支那茶の味が忘れられなかったからです。支那茶の味がいいってどんなによかったろうか。まず、その店で飲むよりほかに、私は、それと同じい茶を手に入れることができなかったのです。

その味は、ちょっと言葉には現されないのですが、味というよりも香いがよかったのです。なんというか、まだ、江南の春を知らないけれど、この茶をすするときに、夢のような風景を恍惚として想像するのでありました。

そして、頭の上の額には、支那の美人の絵が入っていましたが、美しい、なよやかな姿が、茶をすする瞬間には、さながらものをいうように、真紅な唇の動くのを覚えました。

「君、このお茶の中には、香いのする花が入っているようだが。」と、ある日、私は、この店の主人に向かって、ききました。

腰が低くて、愛想がよく、ここへ住むまでには、いろいろの経験を有したであろうと思われる主人は、笑って、

「このお茶には、蘭亭の白いらんの花が入っていますよ。」と、答えました。

「ははあ、らんの花が入っている。なるほど、それで、こんなに、やさしい、いい薫りがするのかな。」と、らんの花のもつ、不思議な香気に、まったく魂を酔わされたように感じたのでした。

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