母と子
本文約4,500字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
故郷の母から届いた祈祷のお札と御供米を巡り、良吉は妻と会話を交わす。幼少期の病弱さや両親の不和といった記憶が蘇り、母に対して複雑な情を抱く彼は、自身の孤独と心に抱える寂しさを自覚する。本作は、成長し老いを感じるようになった子が、親の心情を理解しながらも、直接的な言葉で繋がることのできない精神的な隔絶と、互いに首を垂れて生きる母と子の関係性を描く。
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封筒の中には長いお札が疊み込まれてあつた。それには××八幡宮玉串と大きな文字が刷られて、その傍に「辰の歳の男疳性平癒」と書いてあつた。
何事を云つて來たのかと、案じながら手紙を開いたおたねは、お札を見るとくす/\獨り笑ひをした。お札の外に御供米が四五粒包まれてゐた。
明ら樣に云つては夫が一口に迷信だとけなして生米なんか口に入れないだらうからと、おたねは御飯の中へそつと落して食べさせることにした。そして、知らずに食べてゐる夫の顏を見守つて、ひそかに面白がつてゐたが、やがて笑ひを忍びかねた。
「お國のお母さんが贈つて下すつたものをあなたは今召し上つたんですよ。」と、些つと揶揄氣味で云つた。
「何を?」
良吉は訝しさうに膳の上を見入つたが、其處には故郷から來たらしい食物は一つもなかつた。甘つたるい菜つ葉の浸物に鹽鱒の燒いたのと、澤庵と辣薤とが珍しくもなく並んでゐるばかりだつた。で、妻が何を云つてゐやがるのかと、取り合ないで箸を動かしてゐたが、おたねは何時までも默つてはゐられなくて、お札と御供米の話をし出した。
「へえ、それは妙だね。」良吉は茶碗の喰ひ餘しの飯を見詰めながら、「××の八幡樣といふのは、おれもうろ覺えに覺えてるよ。馬鹿に石段の高いところだ……。しかし、胃病や肺病の御祈祷をしないで疳性の平癒を祈つたのは可笑しいぢやないか。」
「でもお母さんはいゝ人ですわね。早速あなたが頂いたつて御返事を出さなければ。」
おたねは、お札と母の手紙とを夫に見せて、「此家には神棚があるのに何にも祭るものがなかつたのだから、このお札を貼つときませう。」
「こんなものが貼れるものか。」
良吉はさう云ひながら、直ぐ前に見上げられる神棚へ目をつけた。其處には干物や福神漬や葡萄酒の空鑵などがごた/\と置かれてあつた。