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TORENDIA

銭形平次捕物控

本文約13,300字 ・ 読了時間 約27分

あらすじ(AIが作成しました)

飛鳥山の花見で、敵討を模した芝居の最中に起きた殺人事件を描く。巡礼姿の馬道の出雲屋宗次郎が、虚無僧役の相手に真刀で斬り殺される。居合わせた銭形平次は、その場から逃げ出した虚無僧の行方と、犯行の真相を追う。宗次郎は多くの男女を不幸に陥れた悪党であり、背後には彼に捨てられ死に追いやられた者の遺族が関与していた。平次は事件の真相を見抜くが、情けをかけ、犯人に自首を促す道を選ぶ。

野村胡堂

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一

「親分」

ガラッ八の八五郎は息せき切っておりました。続く――大変――という言葉も、容易には唇に上りません。

「何だ、八」

飛鳥山の花見帰り、谷中へ抜けようとする道で、銭形平次は後ろから呼止められたのです。飛鳥山の花見の行楽に、埃と酒にすっかり酔って、これから夕陽を浴びて家路を急ごうという時、跡片付けで少し後れたガラッ八が、毛氈を肩に引っ担いだまま、泳ぐように飛んで来たのでした。

「親分、――引っ返して下さい。山で敵討がありましたよ」

「何?」

「巡礼姿の若い男が、虚無僧に斬られて、山は煮えくり返るような騒ぎで」

「よし、行ってみよう」

平次は少しばかりの荷物を町内の人達に預けると、獲物を見つけた猟犬のように、飛鳥山へ取って返します。

柔かな夕風につれて、どこからともなく飛んでくる桜の花片、北の空は紫にたそがれて、妙に感傷をそそる夕です。

二人が山へ引っ返した時は、全く文字どおりの大混乱でした。異常な沈黙の裡に、掛り合いを恐れて逃げ散るもの、好奇心に引ずられて現場を覗くもの、右往左往する人波が、不気味な動きを、際限もなく続けているのです。

「退いた退いた」

ガラッ八の声につれて、人波はサッと割れました。その中には早くも駆けつけた見廻り同心が、配下の手先に指図をして、斬られた巡礼の死骸を調べております。

「お、平次じゃないか。ちょうどいい、手伝ってくれ」

「樫谷様、――敵討だそうじゃございませんか」

平次は同心樫谷三七郎の側に差寄って、踏み荒した桜の根方に、紅に染んで崩折れた巡礼姿を見やりました。

「それが不思議なんだ、――敵討と言ったところで、花見茶番の敵討だ。竹光を抜き合せたところへ、筋書どおり留め女が入って、用意の酒肴を開こうという手順だったというが、敵の虚無僧になった男が、巡礼の方を真刀で斬り殺してしまったのだよ」

「ヘエ――」

平次は同心の説明を聴きながらも、巡礼の死体を丁寧に調べてみました。笠ははね飛ばされて、月代の青い地頭が出ておりますが、白粉を塗って、引眉毛、眼張りまで入れ、手甲、脚絆から、笈摺まで、芝居の巡礼をそのまま、この上もない念入りの扮装です。

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