本文へ移動
TORENDIA

無駄骨

本文約5,200字 ・ 読了時間 約11分

あらすじ(AIが作成しました)

私生児として生まれ、母を亡くし極貧生活を送るジャン・ゴオテは、疎遠であった父の元を訪れる。冷遇された末、飢えと困窮の中で父への憎しみを募らせた青年は、夜中に父の部屋へ忍び込む。父が遺言状を執筆中であると知った彼は、財産を家政婦に譲るものと思い込み衝動的に凶行に及ぶ。しかし、その遺言状には驚くべき内容が記されていた。本作は、すれ違いの果てに悲劇的な運命をたどる親子の姿を描く短編小説である。

モーリス・ルヴェル Maurice Level

速度
🎧 無駄骨 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 7

そのジャン・ゴオテという男は、見たところ、ちっとも危険な犯罪者らしくなかった。

年齢はちょっと見当がつかないが、弱そうな小柄の青年で、何だか子供の時分から病身で悩んで来たという風であった。ときどきそそっかしく鼻へあてる近眼鏡の蔭にさまよう眼付なんか、ほんとうに静かで柔和だった。叱られて怖々している子供といった方が適当なくらいで、これが人殺しをした青年とはどうしても思えなかった。

ところが彼は実際、人殺しをやったのである。そして犯行後数時間目に逮げられたのだが、警官から肩を押えられると同時に、何等悪びれた風もなく、自分が犯人であることをまっすぐに自白してしまって、しかしそれ以来、頑固に口を噤んでいたのであった。

「おい」予審判事が或る日彼を詰問した。「お前は被害者と全然無関係で、また、その家から何も盗まぬと云ったな。そんなら何のために彼を殺害したのか」

「別段に理由はありません」

「いや何か理由があっただろう。やたらに他人の家へ入りこんで人を殺すということは出来るものでない。いったい、何のためにあんなことをやったのか」

「目的もなくやっつけたのです」

「いや、あの男は、お前に対して何か不都合なことでもしたんだろう」

青年はもじもじして眼を伏せて、曖昧な身振りをしながら、

「左様じゃないんです」

口の中で呟いていたが、何を思ったのか急に調子をかえて、

「ええ実は、出鱈目にやったことではなくて、理由があったのですが、最初に否定したものですから、つい云いそびれてしまいました。そればかりでなく、有態に申しあげにくい事情がありましたので――

実は、私は私生児でございます。母は貧苦のために非常な苦労をして私を育ててくれました。あの時分のことを思いますとほんとうに惨めなもので、私たち母子は、涙の乾く隙とてもありませんでした。学校へ行くと皆が私を『父なし児』だといって弄りものにします。私はわけが解りませんでしたが家へ帰って母に訊きますと、母は両手を顔にあてて泣くものですから、子供心にもそれはきっと悲しいことにちがいないと思って、それっきり父なし児という言葉は口にしませんでした。

モーリス・ルヴェル Maurice Levelの他の作品

🎧
見開いた眼
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約10分
🎧
麦畑
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約10分
🎧
闇と寂寞
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約11分
🎧
老嬢と猫
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約18分
🎧
ピストルの蠱惑
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約11分
🎧
フェリシテ
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約11分
ラ・ベル・フィユ号の奇妙な航海
モーリス・ルヴェル Maurice Level
🎧
麻酔剤
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約12分
🎧
幻想
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約16分
🎧
乞食
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約13分
🎧
自責
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約13分
🎧
十時五十分の急行
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約11分

同じジャンルの朗読つきの本