山の魅力
本文約3,900字 ・ 読了時間 約8分
あらすじ(AIが作成しました)
夏山の登山が持つ驚異と深い魅力を綴る。自然への憧れを抱く人が山と融合し、無我の境地に到達する過程や、困難を克服して得られる登頂の喜びを説く。あわせて、高山特有の気候や地形、高山植物が咲き乱れるお花畑の情景、過去の氷河の遺跡である圏谷の荘厳な姿、そして雲海や御来迎といった山岳特有の希少な現象を紹介する。
💰 この本を応援する(投げ銭)
一
夏の登山が今日のように盛になったのは、色々の原因があるにしても、山が何かしらん人の心をしっかりと捉えずには置かない、強い魅力を持っている為である。人真似であろうが流行かぶれであろうが、登山の動機は何であっても、二度三度と行く中には、真実に山が好きになって、機会さえあれば如何しても登らないではいられないようになる。平地では夢想だもしなかった、登山者の前にのみ次から次へと展開する新しい驚異は、知らず知らずの間に山にあこがれ、山に徹底し、これと融合して無我の境地に到達しなければ止まない衝動を与える。この境地は登山に於て所謂詩人の霊感にも比す可きものであろう。されば山の魅力は驚異であり、驚異の感情は登山者が山に執着を感ずる心の目覚めである。つまるところこれは、如何に多くの人が原始のままの自然の姿に対して、無意識の中に深い憧れを感じつつあるかを語るものに外ならない。そして自然が最もよく原始のままに保存されているのは、陸上に於ける島ともいう可き山である。山が高ければ高い程、深ければ深い程、一層よい。
勿論山に登るのは、それがいくら容易な山であるというても、平地を歩くより骨の折れることは言う迄もないことで、幾多の困難があり、時としては多少の危険がある。この困難を排し、この危険を冒して、或時は恐怖の念と戦い之を克服しつつ、或時は驚異におどり立つ心に胸の高鳴りを感じつつ、自ら努力して撓まざる登高の歩みを続けなければならない、溌溂たる精神の向上と肉体の健闘とを強いられることも、登山の快味を高調する点に於て、亦山の持つ魅力の一に加えることを許さる可きであろうと思う。特別の場合はあるにしても、登山の最大の愉快は、首尾よく目的の登攀を完了して、山稜にもあれ山頂にもあれ、其処から四周の眺望を恣にする時にあるが、それはこの努力に対して山が与えてくれる貴い報酬である。
二