TRENDIA CLASSIC
一枚の切符
江戸川乱歩
1 / 19
上
「イヤ、僕も多少は知っているさ。あれは先ず、近来の珍事だったからな。世間はあの噂で持切っている。が、多分君程詳敷くはないんだ。少し話さないか」
一人の青年紳士が、こういって、赤い血の滴る肉の切れを口へ持って行った。
「じゃ、一つ話すかな。オイ、ボーイさん、ビールの御代りだ」
身形の端正なのにそぐわず、髪の毛を馬鹿にモジャモジャと伸した、相手の青年は、次の様に語り出した。
「時は――大正――年十月十日午前四時、所は――町の町外れ、富田博士邸裏の鉄道線路、これが舞台面だ。冬の、(イヤ、秋かな、マアどっちでもいいや)まだ薄暗い暁の、静寂を破って、上り第○号列車が驀進して来たと思い給え。すると、どうした訳か、突然けたたましい警笛が鳴ったかと思うと、非常制動機の力で、列車は出し抜けに止められたが、少しの違いで車が止まる前に、一人の婦人が轢殺されて了ったんだ。僕はその現場を見たんだがね。初めての経験だが、実際いやな気持のものだ。
それが問題の博士令夫人だったのさ。車掌の急報で其筋の連中がやって来る。野次馬が集る。そのうちに誰れかが博士邸に知らせる、驚いた主人の博士や召使達が飛出して来る、丁度その騒ぎの最中へ、君も知っている様に、当時――町へ遊びに出掛けていた僕が、僕の習慣である所の、早朝の散歩の途次、通り合せたという訳さ。で、検死が始まる。警察医らしい男が傷口を検査する。一通り済むと直ぐに死体は博士邸へ担込まれて了う。傍観者の眼には、極めて簡単に、事は落着した様であった。
江戸川乱歩の他の作品
TRENDIA CLASSIC
指環
江戸川乱歩
指環
江戸川乱歩 ・ 約7分
TRENDIA CLASSIC
赤いカブトムシ
江戸川乱歩
赤いカブトムシ
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
悪霊物語
江戸川乱歩
悪霊物語
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
赤い部屋
江戸川乱歩
赤い部屋
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
「悪霊物語」自
作解説
江戸川乱歩
「悪霊物語」自作解説
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
悪霊
江戸川乱歩
悪霊
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
暗黒星
江戸川乱歩
暗黒星
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
偉大なる夢
江戸川乱歩
偉大なる夢
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
悪魔の紋章
江戸川乱歩
悪魔の紋章
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
一寸法師
江戸川乱歩
一寸法師
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
江川蘭子
江戸川乱歩
江川蘭子
江戸川乱歩
TRENDIA CLASSIC
お勢登場
江戸川乱歩
お勢登場
江戸川乱歩