本文へ移動
TORENDIA

一寸法師

本文約95,900字 ・ 読了時間 約192分

あらすじ(AIが作成しました)

浅草公園を徘徊していた小林紋三は、奇妙な一寸法師と遭遇し、その直後から山野邸で夫人が消失するなど不可解な事件に巻き込まれる。次々と関係者が姿を消し、連続する失踪や奇怪な出来事に翻弄される紋三は、名探偵明智小五郎と共に真相を追う。一寸法師がもたらす恐怖と謎を背景に、物語は怪奇と冒険が交錯する中で展開する。明智は緻密な推理で一連の事件の全貌を解き明かし、隠された真実と人間模様を描き出す探偵小説である。

江戸川乱歩

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 119

作者の言葉

私は探偵小説を書くのですが、探偵小説といっても、現在では色々の傾向に分れていて、昔の探偵小説という感じからは非常に遠いものもあるのです。私が書きますものは、それは完結して見なければ分らないのですが、恐らく本格探偵小説といわれているものには当らず、そうかといって、もっとも新しい傾向である、いわばモダン型でもなく、やっぱり私好みの古臭い怪奇の世界を出でないであろうと思います。つまり私自身の探偵小説を書く外はないのであります。

そこで、もし始めてこの種の小説をお読みになる読者があったなら、私のものだけによって、今の探偵小説とはこんなものかなんておっしゃらないで、もっと外の傾向のものをも合せ読まれんことを希望致すのであります。

大正十五年十二月七日「東京朝日新聞」 [#改ページ]

死人の腕

小林紋三はフラフラに酔っ払って安来節の御園館を出た。不思議な合唱が――舞台の娘たちの死物狂いの高調子と、それに呼応する見物席のみごとな怒号が――ワンワンと頭をしびらせ、小屋を出てしまっても、ちょうど船暈の感じで足許をフラフラさせた。その辺に軒を並べている夜店の屋台が、ドーッと彼の方へ押寄せて来るような気がした。彼は明るい大通をなるべく往来の人たちの顔を見ないように、あごを胸につけてトットと公園の方へ歩いた。もしその辺に友達が散歩していて、彼が安来節の定席からコソコソと出て来るところを見られでもしたら、と思うと気が気でなかった。ひとりでに歩調が早くなった。

半町も歩くと薄暗い公園の入口だった。そこの広い四辻を境にして人足はマバラになっていた。紋三は池の鉄柵のところに出ているおでん屋の赤い行燈で、腕時計を透して見た。もう十時だった。

「さて帰るかな、だが帰ったところで仕方がないな」

彼は部屋を借りている家のヒッソリした空気を思い出すと、何だか帰る気がしなかった。それに春の夜の浅草公園が異様に彼をひきつけた。彼は歩くともなく、帰り途とは反対に公園の中へと入って行った。

江戸川乱歩の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本