悪霊物語
本文約8,100字 ・ 読了時間 約17分
あらすじ(AIが作成しました)
怪奇小説家の大江蘭堂は、人形師の仕事部屋を書く必要に迫られ、世田谷の経堂に住む「伴天連爺さん」とあだ名される老人形師を訪問する。老人は、死体や病気を模した精巧な蝋人形を制作しており、蘭堂は秘密のアトリエで、人形のような美女・最上令子と出会う。しかし、その夜の帰り道、蘭堂は令子から「助けてください。私は殺されます」と書かれた紙きれを託される。人形と人間の境界が曖昧な空間で繰り広げられる物語である。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
老人形師
小説家大江蘭堂は、人形師の仕事部屋のことを書く必要に迫られた。ブリタニカや、アメリカナや、大百科辞典をひいて見たが、そういう具体的なことはわからなかった。
蘭堂は、いつも服をつくらせている銀座の洋服屋に電話をかけた。そして、表の店に飾ってあるマネキン人形は、どこから仕入れているのかと訊ねた。
マネキン問屋の電話番号がわかったので、そこへ電話した。こちらは小説家の大江蘭堂だが、人形師の仕事部屋が見たい。なるべく奇怪な仕事部屋がいい。一つ変り者の人形師を教えてくれないかと云うと、先方は電話口で、エヘヘヘヘヘと気味わるく笑った。
「あなたさまは、あの恐ろしい怪奇小説をお書きになる大江蘭堂先生でございますか。エヘヘヘヘヘ、それでしたら、ちょうどおあつらえむきの老人の人形師がございますよ。名人ですがね、そのアトリエには、だれもはいったものがございません。秘密にしているのです。しかしね、先生、先生でしたら見せてくれますよ。伴天連爺さんは、いえね、これがその人形師のあだ名でございますが、その伴天連爺さんは、あなたさまが好きなのです。あなたさまの小説の大の愛読者なのでございます。いつも、いちど先生にお目にかかって、お話がうかがいたいと申しております。先生のことなら、きっと喜んで、秘密のアトリエを見せてくれますよ」
ひどくお愛想のいい店員であった。伴天連爺さんのアトリエは世田谷の経堂にあるのだという。ぜひ、その爺さんに紹介してくれとたのむと、電話で、先方の都合を聞いて見ますから、しばらくお待ち下さいといって、いちど電話を切ったが、間もなく返事が来た。
「先生、先方はよろこんでおります。今晩七時ごろに手がすくから、その頃おたずねくだされば、お待ちすると云っております。先生にくれぐれもよろしくと申しました」
そこで、大江蘭堂は、その晩、経堂の伴天連爺さんを訪問することにした。