動く映画館
ある夕がた、渋谷区のやしき町を、ふたりの少年が歩いていました。もとボクサーのおとうさんをもつ井上一郎君と、すこしおくびょうだけれども、あいきょうものの野呂一平君です。ふたりとも、小林芳雄少年を団長とする少年探偵団の団員なのです。
ふたりは小学校の六年生ですが、井上君はクラスでも、いちばんからだが大きく力も強いうえに、ときどき、おとうさんにボクシングをならっているので、だれにも負けません。野呂君は井上君にくらべると、ぐっとからだが小さく、なかなかチャメスケです。ノロちゃんというあだなでとおっています。そういうふうに、からだのかっこうも、性質もちがっていますけれども、ふたりは大のなかよしでした。
「おやっ、あれ、なんだろう。へんな紙しばいだねえ。」
ノロちゃんが、町のむこうの方に、おおぜいの子どもが集まっているのを、ゆびさしていいました。
「うん、へんだね。紙しばいじゃないよ。自転車でなくて、自動車がとまっているもの。いってみよう。」
ふたりが、その方へ近づいていきますと、だんだんようすがわかってきました。
それはオート三輪を、小型自動車のように作りかえたもので、その自動車のうしろの上のところに、板で四角にかこったものが出っぱっていて、そのおくに、二十インチのテレビぐらいの大きさの白いスクリーンに、何かモヤモヤと動いているのです。
「あっ、わかった。映画だよ。自動車の中から映画をうつしているんだよ。」
「そうだ。西部劇だ。カウボーイが、馬にのって走っているよ。」
ふたりは、いそいで、見物の子どもたちの中へはいっていきました。
「いまや、トニーは、ぜったいぜつめい。ピストルをうちつくし、もうたまが一発もなくなったのであります。」
赤と白のだんだらぞめのとんがりぼうしに、おなじ道化服をきて、顔をまっ白にぬり、ほおに赤いまるをかいた男が、しわがれ声で映画の説明をしています。この道化師が、オート三輪の小型自動車を運転して、紙しばいのように、町から町をまわっているのでしょう。