書簡 大杉栄宛
本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
千葉県の旅館に滞在する著者が、東京の大杉栄へ宛てた私信を収める。手紙を受け取った喜びや、日々の生活の様子、子供の預け先についての報告を綴る。また、自身の執筆活動に対する心境や、相手との関係における心情、遠く離れた地から相手の状況を案じる様子などを記し、当時の率直な感情と交流が反映された一通となっている。
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宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館 発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館
今日は朝からちつとも仕事が出来ないので困つてゐましたの。昨日お手紙が来たので、今日はもう頂けないものと思つてあきらめて待たないでゐましたのに、来ましたので本当に嬉しうございました。本当にいろ/\御心配をかけて済みません。
女の世界もとうたうやられましたか。すると、もう私達は何も云ふ事が出来なくなつた訳でせうか。しかし、他の人に云へる事が何故私達が云つてはいけないのでせうね。
着物の心配までして下さつてありがとう。もうお天気の今日には暑くてセルも着られませんから、直ぐと単衣でゐられます。従妹から湯上りに着るのを二反送つてくれました。それを仕立てて着てゐればよろしうございますから。それと、羽織を、私は東京にあると思つてゐましたら、田舎に置いてあるさうですから、それを送つて貰ひます。いい単衣が一枚あればそれでいいのです。九州へ行けば、着るもの位はどうにかなりますから。単衣も出せばあるのですから、急がないでもいいのです。
子供は預つてくれさうです。上野屋の親類の人で、鉄道院へ出てゐた人の妻君で、子供二人をかかへてゐる、まだ若い人です。その人は預りたがつてゐます。ただ親類の同意がありさへすればいいのです。主人はなくなつたのださうです。
お清さん(遠藤清子)が保子さんの処に行つたのは面白いですね。けれど、保子さんがあなたによくなつたのはうれしい。それだけでも充分です。私達にまで好意を持つて頂くやうには決して願ひません。ただ、あなたにさへいやみや皮肉をおつしやりさへしなければ。
静かでいい気持かいなんて、そんな事を云つて本当にひどいのね。ええ、いい気持ですよ。だつて、さびしいと思つたつてあなたが来て下さる訳でもないし、我慢するより仕方がないんですもの。思ひ出させるようになんて、私があなたを思はないでゐる時があると、あなたは思つてゐらつしやるの。本当にそれだからあなたは、人をさん/″\さびしい目に合はせて置いて、静かでいい気持かいなんて笑つてゐられるのですよ。