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TORENDIA

魚の餌

本文約4,800字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

戦争下の九州の防波堤で、病気療養のために釣りをしていた語り手は、貧しくも釣り上手な二人の兄弟と出会う。ある日、自身の餌が盗まれたと確信した語り手は、気まずい空気に耐えかねてその場を立ち去る。後日、釣り場を去る決意をした語り手が残った餌を兄弟に譲ろうとするも拒絶され、海に投げ捨てるという顛末を迎える。語り手は、自らの感傷やその時の子供たちの反応を思い出し、当時のやり切れない記憶と海に沈む餌の美しさを回想する。

梅崎春生

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🎧 魚の餌 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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今でもその子供等のことを、僕は時に思い出す。その子供たちは、たしかに僕の餌箱から、餌を盗んだのだ。

それはもう十年も前のことになる。

十年前というと、まだ戦争中のことだ。戦争中だというのに、大の男がせっせと防波堤に通って、魚を釣る。それも僕だけじゃなくて、防波堤の常連とでも言ったようなのが、十人近くいた。それに半常連。フリの客など。それに本職の漁師も時にこれに加わる。その本職の漁師たちは、お互いに大阪弁で会話した。その海は九州のある湾だから、すなわち彼等は他国者だというわけだ。

つまり何かの事情で移住してきたこれらの漁師たちは、その湾の漁場は土地の漁師に占められ、また舟を持つ余裕もないらしく、余儀なくこの防波堤にも仕事にやってくる。大体そういうことらしい。移住してきた事情は聞かなかった。彼等は総じて身なりも貧しく、態度も粗野だった。大阪弁がかえってその粗野な感じを助長した。それに彼等は僕等を、防波堤の常連たちを、敵視しているような気配もあった。その連中の多くは、防波堤の礎石についた赤貝を採る。四月や五月、そんな水の冷たい季節でも、平気で水にもぐる。ヒラメのように体を平たくして沈んで行き、二分も三分ももぐっている。それらが時に釣竿をたずさえて、僕らの仲間入りをする。

これら本職のやり方を見ていて、僕は素人と玄人の釣り方の差をはっきりと知った。

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