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TORENDIA

ボロ家の春秋

本文約37,400字 ・ 読了時間 約75分

あらすじ(AIが作成しました)

貧乏な画家である語り手は、疣だらけの男・野呂旅人と古びた一軒家で同居している。しかし、家の所有権が曖昧なことや互いの利己的な振る舞いにより、二人の関係は険悪である。都電で出会った不破数馬との因縁を経てこの家へ住み着くことになった語り手は、野菜の売買や画塾の運営を巡り野呂と絶えずいがみ合っている。迫り来る家屋の崩壊や地主の思惑をよそに、二人は互いを傷つけ合いながら奇妙な緊張関係の中に日々を送る。

梅崎春生

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野呂旅人という名の男がいます。そいつはどこにいるか。目下僕の家に居住している。つまり僕と同居しているというわけです。しかしこんな場合、同居という呼び方が正しいかどうか、僕にはよく判らない。貴方も御存知のように、僕は世間知らずの一介の貧乏画家だし、言葉の使用法にあまり敏感なたちじゃありません。でも僕の感じからすれば、同居というのは、同じ権利をもって一家に住みあうこと、一方が他方に従属することなしに住み合うこと、(もし従属すればそれは居候とか間借人などと呼ばれるべきでしょう)そんなことじゃないかと思うんですが、そこらの関係が僕等の間ではたいへん複雑になっているのです。第一この家は一体誰の所有物なのか、僕のものか、野呂のものか、僕等以外の第三者のものなのか、それが全然ハッキリしていないのです。まことに困った話です。

野呂旅人という男は、歳はたしか三十一。背丈はせいぜい五尺どまり。身体も痩せていて、体重も十貫か十一貫というところでしょう。しかしこの男はもっともっと肥る素質はあると思います。なんとなくそんな感じがします。それなのに一向肥らないのは、栄養を充分に摂っていないせいだと、僕はにらんでいます。もっともその点にかけては、僕もあまり大口たたく権利はないのですが。――で、今申したように野呂という男は、ミバも良くないし、頭も切れる方じゃなし、パッとした男じゃないのですが、ひとつだけ外見上の特徴がある。それは疣です。疣というのは辞書を引くと、『皮膚上に、筋肉の凝塊をなして、飯粒ぐらいの大きさに凸起せるもの』とありますが、野呂のは飯粒よりももっと大きい。ゆで小豆ぐらいは充分にあります。それが一つだけならいいのですが、御丁寧にもおでこに三つ、顎に二つ、合計五つの疣が、ちりばめたるが如くに散在しているのです。で、このイボ男が僕と同居している。どういう事情といきさつで野呂が僕と同居することになったか、それを話す前に、先ず家のことについてお話ししたいと思います。

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