黄色い日日
本文約24,700字 ・ 読了時間 約50分
あらすじ(AIが作成しました)
庭に犬が入り込む日常を送る「彼」は、精神的・身体的な不調により、生きる意欲や周囲への関心を失いつつある。かつて友人中山と飲み歩いた夜に水溜まりへ転落して以来、彼の情緒は減退し、日常の出来事に対しても反応を失っていた。その後、友人に関する事件の相談相手である中山が、自身を精神病院の患者として雑誌にルポルタージュとして取り上げていることを知った彼は、その記事を目にしても冷ややかな苦笑いを浮かべるだけである。
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垣根の破れたところから、大きな茶のぶち犬が彼の庭に這入ってきた。お隣の発田の飼犬である。なにか考えこんでいる風に首を垂れ、彼が大切にしている牡丹のところへふらふらとあるいてきたが、その根の辺をくんくん嗅ぎながら二三度廻り、また何となく縁側の方に近づいてきた。どこかで転んだと見え、脇腹に濡れた枯葉を二三枚貼りつけている。縁の前にはバケツをさかさに伏せ、その上に彼の古靴が乾してある。そこで立ち止ると、急に考え深そうな表情になって、丹念に古靴のあちこちを嗅いでいたが、束ねた紐をいきなりくわえて、靴の片方ずつを顔の両側にぶらりと垂らした。そのままでちらりと彼の方を見たようである。硝子戸の内側に座布団を何枚もならべ、その上に寝そべって、彼はそれを眺めていた。
(どうも変だ)頬杖をついたまま、彼はそう考えた。
ぶち犬は靴をくわえたまま、彼の方から眼をそらすと、重そうに頸をふり、今来た道をふらふらと垣根の方に戻って行った。硝子戸の外の犬のいる風景は、ありありと眼に見えていて、またどことなく黄色い光を帯びていた。最後にぶち犬の尻尾が垣根の破れ口にちらりとひらめいて、靴もろとも外に消えた。
(あの垣根も早いうちに修繕しなければ、やがてぼろぼろになってしまうだろう)
彼はけだるく身体を起しながら、垣根の方をぼんやり眺めていた。朽ちかけた竹垣だが、発田の家と彼の家の仕切りになって、往き来できないようになっていたのに、発田のおかみさんが燃料にするために引抜くから、近頃では犬が自由に出入できる隙間ができた。そのうちに人間が通れるようになるだろうし、やがては馬も通れる位になるだろう。今のところは犬だけだが、あのぶち犬は日に三四度は何となく彼の庭にやってくる。茶のぶちをつけたりして、感じのわるい犬だ。牡丹の根を掘ってみたり、捨ててあるものをくわえて持って行ったり、つまらないいたずらばかりする。この間も線の切れた電球をくわえて行ったが、あれはどういうつもりだったのだろう。先日乾しておいた彼の革財布をくわえて行ったのも、この犬にちがいない。
(しかしどうしてこんなに身体が重いのだろう?)