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TORENDIA

お勢登場

本文約11,700字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

肺病を患う格太郎は、妻おせいの不倫に気づきながらも、子供の将来と愛情ゆえに見て見ぬふりを続けている。ある日、格太郎は子供たちと隠れん坊をして遊ぶ最中に長持の中へ入り、そのまま閉じ込められてしまう。閉ざされた暗闇の中で死の苦しみに悶える格太郎は、死の直前に執念で長持の裏に妻の名を書き残す。夫を亡くしたおせいは、平然と演技を続け、周囲の疑惑をそらしながら自身の望む生活へと突き進んでいく。

江戸川乱歩

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一

肺病やみの格太郎は、今日も又細君においてけぼりを食って、ぼんやりと留守を守っていなければならなかった。最初の程は、如何なお人好しの彼も、激憤を感じ、それを種に離別を目論んだことさえあったのだけれど、病という弱味が段々彼をあきらめっぽくして了った。先の短い自分の事、可愛い子供のことなど考えると、乱暴な真似はできなかった。その点では、第三者である丈け、弟の格二郎などの方がテキパキした考を持っていた。彼は兄の弱気を歯痒がって、時々意見めいた口を利くこともあった。

「なぜ兄さんは左様なんだろう。僕だったらとっくに離縁にしてるんだがな。あんな人に憐みをかける所があるんだろうか」

だが、格太郎にとっては、単に憐みという様なことばかりではなかった。成程、今おせいを離別すれば、文なしの書生っぽに相違ない彼女の相手と共に、たちまち其日にも困る身の上になることは知れていたけれど、その憐みもさることながら、彼にはもっと外の理由があったのだ。子供の行末も無論案じられたし、それに、恥しくて弟などには打開けられもしないけれど、彼には、そんなにされても、まだおせいをあきらめ兼る所があった。それ故、彼女が彼から離れ切って了うのを恐れて、彼女の不倫を責めることさえ遠慮している程なのであった。

おせいの方では、この格太郎の心持を、知り過ぎる程知っていた。大げさに云えば、そこには暗黙の妥協に似たものが成り立っていた。彼女は隠し男との遊戯の暇には、その余力を以て格太郎を愛撫することを忘れないのだった。格太郎にして見れば、この彼女の僅ばかりのおなさけに、不甲斐なくも満足している外はない心持だった。

「でも、子供のことを考えるとね。そう一概なことも出来ないよ。この先一年もつか二年もつか知れないが、俺の寿命は極っているのだし、そこへ持って来て母親までなくしては、あんまり子供が可哀相だからね。まあもうちっと我慢して見るつもりだ。なあに、その内にはおせいだって、きっと考え直す時が来るだろうよ」

格太郎はそう答えて、一層弟を歯痒がらせるのを常とした。

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